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署名求ム1

「佐野悠馬が生徒会に入らないよう、反対署名のご協力お願いしまーす!」  翌朝。高等部の校舎入り口で、バインダーを片手に大声を張り上げている人物がいた。みな異様なものを見てしまったかのように、彼へ嫌悪の眼差しや、あきれたような視線を投げかけていた。  そんな彼の姿を、氷雨も見てしまった。こちらの登校に気づかれたら絶対に面倒なことになると確信し、氷雨はそそくさと身を隠すようにして校舎に入ろうとした。  しかし彼は、縮こまった氷雨を目ざとく見つけた。 「隊長! おはようございますっ」 氷雨のよく見知った奇異な人物──悠馬は氷雨の前に立ちはだかるように回りこんであいさつした。  それでも氷雨はうつむいて逃げようとした。けれども一歩踏みだせば二歩分回りこまれるといった具合で、氷雨はあきらめて声を発した。 「どいて」 「その前に署名してもらえませんか?」 「僕に関わるなって言ったよな。あと署名は意味わかんなくて気持ち悪いから嫌だ」 「じゃあ俺が生徒会に入ってもいいんですか?」  氷雨の動きが止まった。そして畳みかけるように悠馬が言葉を次いだ。 「俺みたいなブサイクが生徒会に入るのはよくないと思いますよ」 昨日ステージ上で罵られたのがよほど気に入ったようだった。なぜか自慢げに胸をはった彼にいらだち、氷雨は悠馬の両ほほをつねった。 「いひゃい、いひゃいいひゃい」 「うるさい」 一応痛がってみせた悠馬など気にもとめず、氷雨は指先にぐっと力を込めた。 「本当にぶっさいく」 「……ふ」 氷雨にも罵倒してもらえた。今日は記念に赤飯でも炊こうっと。なんて思っていたら、ぱっと手を離され、バインダーとボールペンをひったくたられた。  氷雨はバインダーに挟まれた手製の用紙に、さらさらと名前を記入して悠馬につき返した。氷雨の字は、昨日見かけたような均整の取れた美しいものだったため、悠馬は満足そうに口角を上げた。 「ありがとうございます!」 「お前のためじゃないから」 「わかってますよ」 へらりと笑ってみせた悠馬をなんとなく直視できなくなり、氷雨は顔をそむけた。 「こんな署名してどうするの。みんなに誠意示そうってわけ?」 「いいえ。俺、生徒会に入りたくないんです。好きな人に近づきすぎたらいけないって、親戚として過ごしてきてよくわかったんです」  悠馬は暗に過去の何かを匂わせるような言い方をしてみせたが、実際は友也との間にそんなロマンスはなかった。悠馬は遠い目をして、氷雨が昨日投げたであろう紙くずを今夜ひとりでどう利用しようか悩んでいた。

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