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署名求ム2

「ふーん。お前と桐生様の間に何があったか知らないけれど、僕だったら生徒会に入って桐生様の気をひこうと思うけどな」 「隊長とは事情が違うんですよ」 「うわ、むかつく言い方。消えてくんない?」  氷雨は目を見開き、名に似合うような氷点下のトーンで悠馬に告げた。悠馬は全身の毛がぞくぞくと卑猥に逆立つのを感じた。下半身にずしりとくる、人を人として認めていないような物言い。洗練された死神のようだ。このまま魂をもがれたい、と悠馬は天に懇願した。 「早く消えてって言ってんの」 「はい……」 「動けよドクズ」 氷雨は悠馬に向かって右手を突き出し、彼の抱えたバインダーごと強めに押した。悠馬はすっかり魂を持って行ってもらった気分に浸っていたようで、そのままふらっと後ろに倒れそうになってしまった。  これに慌てたのは氷雨だった。まさか倒れるとは思ってなかったからだ。氷雨は反射的に悠馬の腕を取り、思い切り自分の方へと引いた──。  しかし氷雨は悠馬よりも体重が軽かった。ゆえに反動が勝ってしまい、悠馬は氷雨に思いきり寄りかかってしまった。 「わ」 「やだ、ちょっ」 どうしようもできず、二人地面へ落ちていった。唯一の救いは悠馬の手が氷雨の後ろに回り、氷雨の受ける衝撃をいくらか減らせたことだろうか。  痛がる氷雨を見て悠馬は片腕をバインダーから離し、なんとかつっぱねた。意図せず押し倒す形になってしまったのだった。  バインダーは氷雨の胸に乗ってしまったが仕方がないと割りきることにした。悠馬は氷雨を起こそうと彼の背に回した腕に力を入れ、ぐいと起き上がった。 「大丈夫ですか……」 と、開いたくちびるが氷雨のそれにかすめそうになり焦って顔をそむけた。消え入りそうな悠馬の声。氷雨はそんな彼がやけにうぶに思えて、頭へ自分のひたいを軽くぶつけてやった。 「痛っ」 ひるむ悠馬のくちびるに氷雨が指を伸ばした。彼のろくに手入れされていない荒れたくちびるの皮を、氷雨は指先でつまんで千切った。  悠馬の口の端から赤い血がにじんだ。くせになりそうな痛みが悠馬の脳を刺激した。そしてそこに心臓が移ったみたいに傷口が鼓動し、氷雨を欲している悠馬の心をあらわしているようだった。  何も口に出さなかった悠馬に、氷雨はまだ悠馬が動揺しているのだろうと解釈した。何を考えているのかいまいち掴めない悠馬が見せた先ほどのわかりやすい反応を、氷雨は気に入ってしまったようだった。  だから氷雨は悠馬の口の端に指先をすべらせ、血をぬぐった。どんな仕草で返してくるか、とからかったのだ。悠馬は動けなくなってしまった。このまま顔を戻したら口づけてしまうに違いなかったから。

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