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生徒会室でふたり2

「八雲にきつく当たられたからじゃないのか」 「隊長は関係ないですよ」 「あっ、また敬語」  友也は悠馬の肩を、トン、といたずらっぽく叩いた。それはちっとも痛くなかったし、悪意に満ちてもいなかった。氷雨の攻撃に比べるとぜんぜん刺激が足りなくて、悠馬はいまいちしっくりこなかったのだった。 「これからは敬語なしで、また友也兄ちゃんって呼べよ。悠馬もそのほうがいいだろ?」 友也が悠馬の手を握りながら言った。あたたかく節くれだった指には、多くの生徒たちからの信頼が表れているように見えた。 「そう、だね」 たどたどしく悠馬は答えた。友也がまるで焦っているかのように強引だったからだ。悠馬は内心、呼び方や言葉づかいなんてどうでもいいじゃないかと思っていた。  むしろ友也が年上で、ましてや全校生徒の憧れる生徒会長なのだから、敬語や様付けのほうが適切なようにも感じた。  そんな悠馬の心の中にはもちろん気づくはずもなく、友也はいささか上機嫌そうに身体をすり寄せてきた。 「充電。いいだろ?」 友也は悠馬に身体をぴったりくっつけた。  あたたかな体温はクーラーのきいている室内においてさほど不愉快ではなかったが、こんなふうに友也に甘えられたのは初めてだったものだから、悠馬は困惑をあらわにした。 「や、いくら俺が男とはいえ、友也兄ちゃんの彼女に怒られるんじゃ……」 「あの子は怒らないさ」  そう言って友也は悠馬の頭を撫でた。小さいころよくそうしてもらったな、なんて、目を閉じれば昔の光景が悠馬のまぶたの裏に広がった。  友也の自宅のだだっ広いベランダには、友也の母が育てている可愛らしいプチトマトや、ワイルドベリーや、料理に使うハーブ類の、鉢とプランターが綺麗に並べられていた。  そこで友也は悠馬とプチトマトをつまみながら、よく話をしていた。子どものころから面倒な係や雑用を至高のよろこびとして引き受けていた悠馬は、今日も重い荷物を三階の端から昇降口まで何往復もして運んだとか、上級生に注意をして殴られただとかをけろけろ話して笑っていた。  そんな悠馬を友也はよく励ましていた。頭を撫で、優しい言葉をたくさんかけてくれた。  悠馬はそういうときの友也が見せる慈しむような顔が好きだった。ひとりっ子の悠馬には、友也はまさしく兄のような存在だったのだ。そのときだけ時空が壊れて、時間がゆったりと流れているような気がしていた。  しかしそんな空間も長くは続かなかった。開くはずのない生徒会室の扉が、外から開かれたからだ。悠馬が反射的にそちらを振りむくと、呆れた様子の生徒会書記──大貫と目が合った。

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