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大貫と悠馬1

「桐生、お前は親衛隊と不適切なことをするためにそいつを任命したのか。それでは津田や前岡に示しがつかないぞ」 「不適切なことって……」 大貫の後ろについていた副会長の津田が、彼の言葉選びに吹きだした。 「笑うな、本当のことだろうが。桐生だけは生徒会の仕事をサボらない奴だと思ってたのに、がっかりだ」  肩を落とす大貫に、友也はばつの悪そうな顔をして悠馬から手を離した。悠馬はというと、何をすればよいのかわからずに硬直していた。ただ思ったことは一つ。厳しい大貫は、自分のタイプだということだけ。 「サボるつもりはなかったんだけどね、もうタイムアップか。仕事しないとね」 観念したように友也が言った。 「これでも十五分は待ったんだ。でももう限界、今日は後期に向けて部活動の予算調査をしないといけないんだからな」 「そうだったんですね、お忙しいところ邪魔をしてしまったようですみません」  ぴりぴりした様子の大貫、そこへ割り込んだのは悠馬だった。悠馬はしおらしく頭を下げた。 「申し遅れました、佐野悠馬と申します。桐生様の従兄弟で、二ヶ月前に転校してきました」 「そうか。俺は生徒会書記の大貫だ、佐野とよろしくやるつもりはない」 「何でそういうことを言うんだよ」 攻撃的な大貫の発言に噛みついたのは、悠馬ではなく友也だった。 「佐野は生徒会に入りたくなくて署名まで集めていただろう。何のアピールだか知らないが、そんなふざけたことをする奴には生徒会に所属する権利はない」 「おっしゃるとおりです」 「悠馬……」  きっぱり言ってのけた大貫にうなずいた悠馬。友也は複雑そうに悠馬の名をつぶやいた。 「なんなら大貫様にも署名してもらいたいくらいです」 「悠馬、やめろ」  バインダーを取り上げた悠馬を友也はいらだった様子で制止したが、悠馬はそれを無視して大貫に署名用紙を差しだした。  大貫はそれを受け取り、丁寧に名前を書いた。止め、跳ねのしっかりした生真面目な字だった。大貫から返されたそれを見て、悠馬は口角をあげ、バインダーを脇にはさんだ。 「満足したなら出て行け。桐生と不適切なことがしたいならば寮の部屋でしろ」 「いえ、そうはいきません。俺は確かに自分を生徒会から除名してもらいたいと思っていますが、今日はまだ生徒会の一員ですから。生徒会として仕事をまっとうしたいと思っております」  真面目ぶってぺらぺら述べてみたが、悠馬は大貫に嫌われたかったがために生徒会へ残ることにしたのが主な理由だった。  さすがに体罰は望めないだろうが、辛辣そうな彼ならばたくさん言葉の暴力をくれそうだと悠馬はもくろんでいた。

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