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執行部を追え2

 そろそろ気疲れが見えはじめたころ、これで最後と悠馬は道場へ向かった。道場では柔道部と空手部が活動していた。  彼らの気合いの入ったかけ声が漏れ聞こえ、汗のにおいがここまでしてきそうな気がした。  道場の門扉は開けはなたれており、中の様子がよく見えた。顔を出して覗きこんでみると、そこには彼らがいた。 「親衛隊……?」 そう、そこにいたのは目当ての生徒会執行部ではなく、先ほど多目的室で会った氷雨たち親衛隊だった。氷雨は組み手の順番を待っている部員に、バインダーとペンを渡していた。  がたいのいい部員は、その体格と道着の分厚さから見るに柔道部だろうか。彼は氷雨からペンを受け取ると、バインダーに挟まれた紙に強い筆圧で何かを書いていた。 「で、もちろんタダってわけじゃないよな」 「何が?」 氷雨は生理的に危険を感じたのか、一歩後ずさった。後ろにくっついていた親衛隊員の谷原と立川も、不安げに首をすくめた。 「もちろんこの署名だよ。チワワ三匹で来ておいて、ヤらせねぇってことはないよな?」 おそらく柔道部の彼は、氷雨の眼前にバインダーをつきつけて言った。  それを合図とばかりに、周りの部員も組み手を中断して親衛隊を取り囲んだ。じりじり、じりじりと距離が詰められた。  人数でも力でも明らかに分が悪かった。部員からバインダーをひったくるようにして受け取った氷雨は、ちっ、と派手に舌打ちした。悔しさからしたそれは、結果、起爆剤になった。 「わああああああああああっ!」 悠馬は氷雨の舌打ちをきっかけに大声で叫びをあげた。突然発せられた絶叫に柔道部員も空手部員もうろたえた。  その隙に悠馬は、後ろから腕を伸ばして氷雨の手を掴んだ。 「隊長、谷原くん、立川くん! みんな手、つないで!」 悠馬が続けた指示に、みな歯向かう余裕もなく手と手を取り合った。  そしてそのまま悠馬は、バインダーを脇に抱えながら全速力で走りだした。氷雨も悠馬と同様にバインダーを挟みながら走った。もちろん谷原も立川も、引いて引かれて走りに走った。  柔道部は体重がありそうな部員が多かったが、空手部は身のこなしが良さそうだったため、不意をついたとはいえ半数は親衛隊に手が届きそうな距離にいた。このままでは確実に捕まってしまう。  渡り廊下を抜け、親衛隊四人は何とか校舎内に入った。そして目に入った空き教室へ転がるように飛び込んだ。息をととのえる間も惜しんで、悠馬はバインダーを投げ出し、またたく間に鍵をかけた。  悠馬が瞬時に判断できたのは、あらかじめ負けを確信していたからかもしれなかった。三十六計逃げるにしかず。  体術の心得もなく、知恵の回るわけでもない悠馬は、とにもかくにもあの場から去ることしか考えていなかったのだ。

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