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執行部を追え3

 一同が肩で息をしていると、バンバンバンと乱暴にドアが叩かれた。生徒会室や職員室のようにしっかりした作りではないこの教室は、彼らのそんな行動ひとつでがたがたと揺れが起きてしまうのだった。 「ひいっ」 「怖い……」 「怯えるな……鍵は、閉まっているんっ、だから」 ぜえ、ぜえ、ひゅう。普段走ったり運動をしない親衛隊員たちは、一様に息を切らしていた。途切れ途切れの発声が、不謹慎ながらも悠馬には淫靡に聞こえた。  しかしこんな状況を楽しんでいてはいけない。 「あの、今っ桐生様に、電話、しますね」 悠馬はポケットからスマートフォンを取り出し、友也に電話をかけた。  本来、氷雨の統率する桐生親衛隊は、生徒会との個人的な連絡先交換をよしとしていなかった。悠馬も親衛隊に入隊する際に、友也の連絡先を削除させられていた。  しかし生徒会の手伝いを任命されたため、友也の連絡先は必然的に悠馬のスマートフォンに戻ってきたのだった。 「ドクズ、後で制裁な」 氷雨が言った。一切冗談めいていない声色とまっすぐな視線からして、それが本気なのだろうことは手に取るようにわかった。  しかし判断力が鈍っていた谷原と立川は、それを氷雨なりの場を和ませるジョークと受け取ったらしかった。 「そ、そうですよねっ。ずるいずるいー」 「そうだ、ずるいぞ。佐野悠馬め」 震える声を隠そうともせず、彼らは苦笑しながらそう言った。ああ、可愛い。食べちゃいたいくらい可愛い。悠馬は衝動を抑え、電話に集中した。 『悠馬、どこにいる? さっきは大貫が悪かったな』 「いや、悪いのは間違いなく俺ですから。そんなことより今、親衛隊が柔道部と空手部に襲われかけていて、なんとか空き教室に逃げこんだところなんです。──ええと隊長、ここって何て言えば伝わりますか」 「音楽室の真下、といえば桐生様ならわかるだろう」  友也と電話をしながら、悠馬は氷雨に聞いた。氷雨はバインダーを脇に挟んだまま不機嫌そうにそう答えた。 『隊長って八雲もいるのか。ケガは?』 「ありません。でも外に追っ手がいるんです! 俺たちは音楽室の真下の空き教室にいるので、助けに来てもらえませんか」 『わかった、すぐに行く』  言うや否や電話はすぐに切れた。彼らも部室を回っているだろうから、近くにいるかもしれない、すぐに来てもらえるかもしれない。そう思うと安心して脱力した。 「外に追っ手がいるんです、ってお前。漫画の読みすぎじゃないの」 すっかり息切れのなくなった氷雨は反射的につぶやき、そしてはっと口に手を当てた。いたって普通に話しかけてしまったことを後悔していたのだろう。

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