「俺は……その、たいへん言いづらいんですけれど。生徒会の仕事は面倒だからしたくないんです。だから罷免してもらいたくて署名を集めています」 　悠馬が嘘を並びたてると、場がしんと静まりかえった。 「でも、桐生様のことはお慕い申し上げておりますので、桐生様と二人きりなら仕事をしてもいいかなと思ったんです」 「『仕事をしてもいいかな』だと？　ずいぶん高慢な言い方だな──しかしようやく合点がいった。君は実に救いようのない男だな」 　実に救いようのない男、か。そう言われて喜んでいる悠馬にふさわしい罵倒だった。氷雨もしらけた目で悠馬を見ていたようだった。 　そんな空気のなか、焦った様子で悠馬の名を呼ぶ声が聞こえた。振りむけば友也と副会長の津田の姿が見えた。 「悠馬！　全員無事か？」 「無事だ」 　友也の問いに答えたのは悠馬ではなく、大貫だった。 「会計の前岡は？」 「あー、たぶんどっかの寮の部屋、かな……」 大貫が眼鏡を光らせると、津田が気まずそうに答えた。 「あいつはまた油を売ってるのか。あれで人気さえなければ、佐野のように罷免を請求したいところだ」 　生徒会会計の前岡は、ふらふらと遊びほうけているが外見と家柄がよく、誰彼かまわず夜をともにしてくれるとのことで生徒から支持されていた。 「悠馬は前岡と違って仕事をすると思うよ」 大貫に友也はそう眉をつりあげて言った。 「は？　俺はいま佐野本人から聞いたぞ。『生徒会の仕事は面倒だからしたくない、だから罷免してもらいたくて署名を集めている』ってな」 「本当なのか、悠馬」 「はい」 悠馬の返答に、氷雨を含む親衛隊の三人がにやにやと意地悪く微笑んだ。 「悠馬は小さいころから、面倒な仕事を引き受けてたじゃないか。飼育係でもないのに夏休みにニワトリの世話をしにいったり、実行委員会で張りきりすぎて身体をこわしたりしていただろう」 「あー……それはその、子どもだったんで元気だったのだと思います」 「元気って」 友也は腑に落ちないようだった。悠馬は確かに小学生のころから友也の言うとおり、人が嫌がることを引き受けて自分の身を削っていた。 　悠馬は自分を追いつめれば追いつめるほど、腹の底にわきあがってくる興奮を感じるようになっていた。それは幼少のころからで、悪癖とはいえないために誰からもとがめられなかったのだった。 「もしかして親衛隊の手前、気をつかってるのか」 「いえ、それは違います」 「でも不自然だろう」 「ええと……」