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おそらくは救世主4
悠馬は助けを求めるかのように氷雨を見つめたが、つんと顔をそらされてしまったので仕方なしに大貫を見た。
すがるような視線を向けると大貫は更にいらついたようで、眼鏡を直す手をかすかに震わせた。
「佐野、なんだその目は」
「あ、いえ」
「佐野が小さいころどれだけ励んでいたとしても、今仕事をする気がないならば俺は佐野を信用することはできない。早く署名が集まるといいな」
「はいっ」
悠馬の明るい返事は柴犬の鳴き声のようだった。皮肉られているというのに、のん気なものだ。それから大貫が姿を消しても、いとしい友也がそこに残っても、氷雨はなぜだか苛立っていた。
「何だかごまかされたような気がするな……」
大貫の背を見送りながら、友也は不満げにつぶやいた。
「気のせいですよ。それより全員けがもなく無事だったことをお喜びくださいませ」
悠馬は苦笑して言った。
「それはそうだけれど、そもそも何で道場に親衛隊がいたのかわからない」
「俺もそれについては詳しく聞きたいですね」
悠馬の返答に、友也は敬語をやめろと指摘しようかと思ったがやめた。親衛隊の前でそれは難しいだろうと思ったからだ。
話を振られた氷雨は、気まずそうにぼそぼそとこう嘘をついた。
「それは……桐生様に近づこうとしている輩がいると、噂で聞いて」
「俺に近づこうって? なら、なんで親衛隊を襲ったんだ?」
友也は不思議そうに首をひねった。
「誰でもよくなったのでしょう」
氷雨はそう呟くと、意図的に悠馬を一瞥した。そう、欲求不満を解消させてくれるのならば、好意を寄せる相手でなくとも抱く人間はいる。誰かさんもそのうちの一人だろう、と。
「誰でもよかったわけではないのでは? 隊長も谷原くんも立川くんも、とても可愛らしいですから」
「一緒くたにするなよドクズ」
氷雨は悠馬にそっと近づき、友也には聞こえないぐらいの小声で呟いた。
「なら、隊長が一番綺麗ですよ、とでも言えば満足ですか?──」
言い終えないうちに、氷雨が激情に任せて悠馬の足を踏んだ。かんばしい痛みに悠馬はにんまりと口角を上げた。
「ふざけるな!」
「こら、喧嘩するなよ」
語気を荒らげた氷雨を友也が制した。ことの次第を見守っていた谷原と立川もおろおろしていた。
「顔が赤いですよ、隊長。照れていらっしゃるんですか」
「怒りで赤くなってるんだよ。僕のことを馬鹿にして……!」
「馬鹿にしてなんかいません、俺の本心です。隊長は美しいですよ」
「うるさい」
「よく手入れされた髪も、長いまつげも、その口も」
悠馬は薄く笑んで氷雨の唇に手を伸ばした。
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