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署名求ム(二日目)2
そんなこととはいざ知らず、悠馬は氷雨を名残惜しそうに一瞥した。しかしいらついた様子の大貫に向き直らないわけにはいかず、バインダーとペンを拾って砂を払った。
「佐野、俺は二股というものが大嫌いだ。君が好きなのは桐生なのか八雲なのかはっきりしろ」
「それはもちろん桐生様ですよ。ところで大貫様は俺に何のご用事でしょうか?」
「今日は俺も署名に協力してやろうと思ってな。君には二度と生徒会室の扉を叩いてほしくないんだ」
「大貫様が協力してくださるんですか? すごく助かります!」
生徒会書記で、洗練された容姿の大貫が共に立ってくれれば、それだけで目立つためたくさんの署名が集まるだろう。
「バインダーもフォーマットも用意してきた。桐生に見つかる前にさっさと始めないとな」
「そうですね!」
明るく返事をした悠馬を見て、大貫は違和感をおぼえた。そもそも仕事が嫌いならば、こんな署名活動など面倒がってやらないだろう。
それに口先では友也を好きだと言いながら、悠馬は氷雨を抱きしめていた。大貫ももちろん氷雨のした制裁と停学については把握していた。被害者が加害者を許すどころか、いとおしむことなどあり得るのだろうか。
たとえば監禁事件などで長時間犯人と一緒に過ごした場合、合理的な心理がはたらいて、被害者が加害者に好意を抱く場合があるという。しかし氷雨と悠馬の場合はその状況が当てはまらない上、彼らは友也を取り合うライバルのはずだ。
──悠馬の嘘は、一日足らずの付き合いである大貫にもわかるほどに綻びを見せはじめていた。
大貫が校門に立つとすぐに人だかりができた。おおむね予想どおりといったところか。大貫と話がしたいために、悠馬にはなんの関心もない生徒たちがこぞって署名をしてくれた。
ほどなくして紙が足りなくなるほど署名は集まり、慌てて悠馬が事務室でコピーしたフォーマットもすぐに埋まり、友也が登校する前に彼らは仕事を終えることができた。
今集まったもの、昨日集めたもの、そして氷雨が集めてくれたものを合わせれば、生徒会規約が定める所定の署名数にぎりぎり達した。
悠馬は深々と大貫に頭を下げ、嬉々として理事長ではなく学園長の元へ向かった。伯父の理事長には止められてしまう可能性があったからだ。
悠馬の思惑どおり深い事情がわかっていない学園長は、生徒会規約に則ってすぐに罷免請求の承認印を押した。
理事長の元には学園長の承認印がつかれた署名の束だけが置かれており、こうなってしまってはいくら理事長が友也の父であっても反対はできなかった。
こうして、悠馬は生徒会を解任された。
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