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税金の無駄づかい1

 悠馬の罷免については前例がないことだったため、校内新聞で大々的に取り上げられていた。それによると生徒会書記の大貫がわざわざ校門に立ち、署名に協力したと書かれていた。 「……あのドクズ、そんなに大貫様と親しかったのか」 氷雨は廊下に貼りだされた記事と、そこに載せられた悠馬の笑顔を見てつぶやいた。制服のポケットには、念のためメモ用にボールペンを刺していた。 「佐野悠馬、生徒会クビになったね」 「どうせ謙虚キャラをアピールするために署名集めてたんでしょ。また懲りずに桐生様に近づくんじゃないの? アイツ親衛隊員でしょ?」 「いや、それがもう親衛隊もクビになったんだって。隊長の八雲氷雨がとうとうブチ切れたらしいよ」 「でも八雲は最近、佐野に牙抜かれちゃったらしいじゃん! 佐野に押し倒されたり、抱きしめられたりして──」  氷雨の背後で無遠慮にされたうわさ話。その途中で、ボキッ、とまるで人の骨が折れるような音がした。 「誰が誰に牙を抜かれたって?」 うわさ話をしていた彼らに振り向いた氷雨の手から、真っ二つに折ったボールペンがばらばらとこぼれ落ちた。氷雨の発した地獄の底から聞こえてくるような声と相まって、その場にいた皆は震えあがったのだった。  一方悠馬は自分の教室で席に座り、頬づえをついて考えごとをしていた。生徒会は無事に罷免されたが、親衛隊まで除隊させられてしまったのは誤算だった。  氷雨に近づく他の手はずを早急に考えなければ、うかうかしているうちに夏休みが来てしまう。  あと一ヶ月か──悠馬はカレンダーの水無月の字を睨んだ。長期休暇なんて悠馬には嬉しくも何ともなかったのだった。氷雨に会えなくなるからだ。  友也に近づいて、親衛隊からの制裁を待つか。にしても、罷免請求のすぐ後では不自然にもほどがある。  いや、そういえば空き教室に四人で逃げこんだとき、氷雨が制裁をほのめかしていたっけ。今のところはそれを楽しみに待つしかないだろうか。ああ、待つのは苦手だ。待ち伏せと放置プレイは好きなのだけれど。  頭を抱えていた悠馬だったが、この日早くも彼の望みは叶うこととなった。それは四限目の終わり、体育を終えて教室に戻る途中のことだった。 「おい、きっとあれが本物の佐野悠馬だ! ジャージに佐野って書いてあるからな」 「やれやれ、顔の印象が薄すぎて何度も間違えちまったぜ」  失礼な発言とともに、悠馬は後ろから屈強な男どもに捕らえられてしまった。その数は二名だったが、不意をつかれて両腕を掴まれてしまっては太刀打ちができなかった。

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