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税金の無駄づかい2

 悠馬は転入初日からクラスへなじめずにいたが、今日は特に生徒会補佐加入騒動から署名騒動、おまけに親衛隊除隊のせいで悠馬は完全にひとりぼっちだった。とぼとぼと一人で歩いているところを狙われたのだ。  そんな状況だったため、悠馬が彼らに空き教室へ無理やり押しこまれても、誰も気づくことはなかった。  悠馬は乱暴に教室の床へ放りだされた。すかさず二人組のうち一人が鍵をかけた。空き教室へは何度も入ったが、これが一番悠馬にとって危機的なシチュエーションに見えた。  残りの一人が悠馬を床へ押さえつけ、鍵をかけた方の男が教室の中からロープを探して持ってきた。  暗闇のなか、目をこらしてみれば奥にもう一人小柄な影があるようだった。その人物は沈黙してことの次第を見守っていた。  ほどなくして悠馬はロープでぎちぎちに縛られた。専門的知識のないらしい男は悠馬の望むようには縛らず、犯人を捕まえた時のようにぐるぐる巻きにした。  しかしそれでも悠馬にとっては十分だった。身を動かそうとすれば縄の感覚が服越しに肌に感じられ、みしり、みしりと風情のある縄独特の音が悠馬の耳いっぱいに聞こえた。  これはいったい何のごほうびだろう。悠馬は徳を積んだ覚えなどまったくと言っていいほどなかった。男たちは緊縛だけでは飽きたらず、悠馬の身体を思い切り蹴った。 「ぐぅっ……」 「見ろよ、唸ってやがる!」 「ちょろいもんだぜ」 悠馬の漏らした声に、げらげら笑う男二人。悠馬を交互に転がして、ヘイ、パス、などと遊んでいた。  彼らのキック力はわりに強く、悠馬はだんだん痛みに意識がぼやけてきた。悠馬の好きな感覚だった。暴力や誹謗中傷は、時に、より辛い現実をこうやって忘れさせてくれるから。  けれどぜいたくを言わせてもらえば、氷雨にこうされたかったと悠馬は思った。氷雨の細い指でもって縛りあげられ、氷雨の履いたローファーで蹴られたかった。とどめに蔑んだ目を向けて、またドクズと呼んでほしかった。 「惨めだな、ドクズ」 ああ、そう、こんなふうに。悠馬はまぼろしに身を委ねたつもりでいた。けれどそれは、幻聴でも聞き間違いでもなかったのだった。  そう、教室の奥にあった小柄な人影は氷雨だったのだ。鋭い眼光ながら蝋細工のように繊細で危うい美しさのある彼を、悠馬が見まごうはずがなかった。 「八雲、コイツをヤればいいんだろ?」 「つーかコイツだけじゃ俺ら勃ちそうにねぇから、八雲もヤッてい──ゲフッ」 氷雨は片方の男にひじ鉄砲を食らわせ、話を無理やり中断させた。

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