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税金の無駄づかい3
「予定変更、後は僕がやる。お前らもう帰っていいよ」
自分の身に危険を感じたらしい氷雨は彼らにそう告げた。
「マジかよ」
「金は払うから。ほら、残りの二万」
氷雨はポケットから折りたたんだ一万円札を四枚取り出し、男らに二枚ずつ渡した。
「やりっ」
「税金の無駄づかいだな……」
ぶつぶつ呟きながらも彼らは金を受け取るとそのまま鍵を開けて去っていった。
そう、氷雨は彼らを金で雇っていたのだった。この二人は親は高給取りだがもらっている小遣いが少なく、遊ぶ金が足りなくなっていたのだ。氷雨はそんな事情を聞きつけ、彼らに自分の親──八雲議員──から貰った金を渡したのだった。
さて、残った氷雨は扉に鍵をかけ直し、ずかずかと悠馬の元へ歩いてきた。
「たい、ちょ……」
「だから隊長じゃない」
「せんぱい」
舌ったらずに聞こえた悠馬のそんな呼び方に、氷雨は不本意ながらも動揺した。
でも決してぐらつくことがないようにと、氷雨は悠馬の股の上に自分の靴を乗せた。
「今さら媚びても遅いんだよ。生徒会の手伝いなんか任命されて、自分だけ抜けがけして桐生様とベタベタしくさって。あげく大貫様にまで色目をつかう愚行。お前には最高の罰を与えてやらないとな」
「俺、氷雨先輩にヤられちゃうんですか?」
悠馬はうるんだ目で氷雨を見つめてみた。内心の期待を押しつぶして、まるで恐れているように氷雨をあざむくためだった。そうすれば、氷雨は自分を襲ってくれるかもしれないから。
欲を言えば襲われるよりも襲いたいのだが、この際ぜいたくは言っていられなかった。
「そうだな。お前に屈辱をくれてやるか」
「お前、僕が桐生様と代わってくれないかなとか思ってるんだろ」
「そりゃ、そう、ですね」
「この期に及んでよくそんな口がきけるなっ」
氷雨は足先に思いきり力をこめた。悠馬は蛙のつぶれたような声をあげた。氷雨はぞくぞくと身震いした。もちろん悠馬も同様に高揚していた。
そのまま氷雨が憎しみをこめて足をぐりぐりねじると、悠馬は息を荒くした。そのうちうっすらと涙まで浮かばせた。
ああ、なんだろう、この感情は。氷雨の胸の、否、身体のもっと奥底から、何物にもたとえられないほどの興奮がわきあがってきた。
「苦しい? 痛い?」
「いた、い……です」
「僕はもっと苦しい。お前なんかよりもっともっと痛くて苦しいんだよ」
そう、胸が痛くて苦しいんだ。お前が大貫になど媚びるから──。
と、思考の途中で氷雨ははっとした。今僕は何を考えた? 何を思った。あろうことか友也のことではなく、悠馬が大貫に向けた笑顔が真っ先に頭をよぎっていたのだった。
「どう、したん……すか」
「お前さ」
「はい」
「大貫様のことどう思ってるの」
氷雨は悠馬の股からいったん足を外して聞いた。悠馬はきょとんとしていた。
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