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税金の無駄づかい4

「真面目な方だと思いますよ」 「そうじゃなくて、特別な感情があるんじゃないの」 氷雨の含んだような問いに、悠馬はますます首をかしげた。 「ええと、好みではあります」 「顔が?」 「顔も綺麗だと思いますけれど、それよりも雰囲気ですかね」 「雰囲気……。じゃあ桐生様が相手をしてくれなかったら、大貫様と付き合いたいと思うか?」 「それは思いませんよ」 「ならなんであんなに媚びた声を出したんだよ」 「それは……特に深い意味は……」  事実、深い意味はなかった。あの声は大貫の怒りを煽るためでした、とは口が裂けても言えなかった。 「あるだろ」 「うーん」 「深い意味、あるだろ!」  氷雨は怒号をあげた。意識的にそうしたというよりは、だんだんと勢いがついてそうなったようだった。なんだかちんぷんかんぷんで噛み合わせが悪い。どうして氷雨は大貫にこだわっているんだ? 「大貫様に対してニコニコへらへら笑いやがって気持ち悪いんだよ。お前のそういうところ、ほんっとうに嫌い」 「なんで隊──八雲先輩が怒るんですか?」 悠馬はちんぷんかんぷんの整合性を取るために疑問を投げかけた。 「俺が大貫様に媚びたとしても、桐生様への忠義に欠けるとはいえ、八雲先輩がそんなに怒ることではないですよね。俺が誰を好きになろうと自由なのでは?」 「それは……」 「もしかして先輩、大貫様に妬いてます?」  悠馬の悪いくせだ。叱られたくて、舌打ちされたくて、ふざけた質問を投げかけた。 「八雲先輩は俺のことが好きになったんじゃないですか?」 「好きって」 「恋愛の好き、ですよ」 悠馬は曖昧に笑った。氷雨は目をそらせなかった。それは氷雨の好物であるバナナオムレットより、ずっとずっと厄介で甘くもないのに、なぜだかかぐわしい香りがするような気がしてしまったのだ。 「僕が……お前なんかを……」 氷雨はひそやかな声を発したが、反対に胸はばくばく鼓動がうるさかった。心臓の音ばかり聞こえるぐらいに。 「やめろ。やめろやめろやめろっ!」 氷雨は頭を振った。 「僕が好きなのはずっと前から桐生なんだ。優しくて、正しくて、まっすぐな桐生が好きなんだよ。恋人になるのは僕だと思ってた。ボタジョの彼女がどんなにいい女だって、僕は諦めきれない」  いつの間にか氷雨は友也を様付けで呼んでいなかった。友人関係だったあの頃みたいに、友也を名字の呼び捨てにした。 「いつかきっと振り向いて、いや、たとえ振り向いてくれなくとも、桐生を変なやつに近づけたくなくて、取られたくなくて、それで僕は親衛隊をやってるんだ」

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