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税金の無駄づかい5
「お前みたいな、性格はドクズで、自分の欲望を優先して僕を襲うような奴」
──食えない性格で、心を侵食していく奴。
「しかも顔もスタイルも平凡で、まったく人目をひかないし」
──でもふとした瞬間の表情がやけに魅惑的な。
「それに僕の好きな桐生にベタベタしやがって」
──僕は本当に、まだ桐生が好きなのか?
氷雨は自分自身の内なる声に、はっとした。
──牡丹女学院の彼女がいる桐生を、僕はまだ諦めないでいるのか?
「諦められるもんか……っ」
──それは、好意と言えるのか。
「執着なさってるんですね」
──執着しているのかもしれない。
その瞬間、悠馬の声と氷雨の心の声が重なった。氷雨は動きをぴたりと止め、悠馬を見つめた。
「愛っていうのは、好きな人の幸福を願うものでしょう。友也兄ちゃんと彼女の仲を応援すればいいのに、八雲先輩も、もちろん俺もそうしない」
悠馬は論ずるように言った。友也のことはわざと親しい呼び方にした。悠馬のせりふは口先だけの軽い言葉だったが、氷雨には重く聞こえた。痛いところを突かれたからだ。
「友也兄ちゃんに執着してるだけなんですよ。それは美しい愛じゃない」
「そんなの──」
言いかけて氷雨は、ふたたび足を悠馬の股の上に乗せた。
「そんなのわかってる! お前と一緒にするな……っ」
溢れだしそうになる感情をこらえるように、氷雨は言葉を詰まらせた。そして思いきり悠馬の股を踏んづけた。
「いっ……!」
「痛いか? 痛いだろ! ずっと痛みにもだえてろドクズ! お前なんかに、お前なんかにあれこれ言われたくないんだよ!」
氷雨は怒号をあげ、悠馬の股間をつぶすようなつもりでそこに負荷をかけ続けた。悠馬はあまりに強すぎる刺激と快楽に、ぱちぱちと頭の中で火花が散ったような気がした。
氷雨が憎しみをかければかけるほど、苦しんでほしいと願えば願うほど、悠馬は氷雨の意思と反して快感におぼれていった。
やがて悠馬のスラックスに小さな染みがにじむのを目にすると、氷雨は面食らって悠馬から足を離した。
「なん、で……」
氷雨は愕然とした。悠馬に与えたのは激しい苦痛のはずで、とても射精をうながす類のものではなかったはずだからだ。
「えっと」
悠馬は自分の股を見て情けなくなった。耐えきれず弾けてしまうだなんて。とりあえず適当な理由をつけることにした。
「生命の危機を感じると、動物は子孫を残そうと必死になって、性器が反応するらしいですよ……」
テレビでなんとなく知ったことを言ってみたが、氷雨は納得していない様子だった。
「それにしてもおかしいだろ。うっわ、気持ち悪……」
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