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ここでネタばらし2

 後悔なんてとんでもない、まさに好きな人にファーストキスを奪われたのだから。縄をほどかれると悠馬はすぐさま顔を隠した。正直にゆるんだ口を、細めてしまった目じりを、見られてはいけなかったからだった。 「何、泣いてるの?」 氷雨は顔をおおう悠馬の手を乱暴に退かした。そこには眉を寄せて真っ赤に熟れたぐちゃぐちゃの顔があって、氷雨は動きを止めた。 「キスごときでこんな」 「だっ、だって、はじ、初めてで」 「襲ったことはあるくせに何言ってんのクソ童貞」 呆れたように言った氷雨は、あわてて自分の口をふさいだ。つい悠馬を罵倒してしまったからだ。案の定悠馬は嬉しそうに目じりを下げていた。 「ほんっとおめでたい奴……」 呆れたように言いながらも氷雨は楽しげだった。ふだん飄々としている悠馬のあわてふためいた姿がよほど気に入ったらしかった。  そうこうしているうちに昼休み終了、および五限目の予鈴が鳴った。 「切り上げるか」 「え、俺を襲うんじゃなかったんですか」 「乱暴にしたらお前が喜ぶだろうが。制裁はお前を気持ちよくさせるイベントじゃないんだよ」 悠馬はぎくっとした。氷雨の言うとおりだったからだ。 「じゃあな佐野悠馬。ファーストキス奪われて残念だったな」 悠馬を喜ばせないために、氷雨はあえてクズとかデクではなくフルネームで彼を呼んだ。のどをくつくつ鳴らして笑う氷雨はあまりに可愛らしく見えて、悠馬はしばし見とれてしまった。  それから数日が経過した。蝉は日に日にやかましさを増し、種類が増えて鳴き方にもバリエーションが出てきた。不協和音の大合唱だ。  今日の体育は水泳の授業であるためおのおの水着を持参してはしゃいでいたが、悠馬はつまらなさそうにしていた。キスを仕掛けられたあの日以来、氷雨に会っていないからだった。 「よしっ」 悠馬はひとり呟いて気合いを入れた。今日は生徒会室に行こうと思ったのだ。いくら悠馬の性的嗜好が知られてしまったとて、友也につきまとっていれば氷雨はそれを咎めてくれるだろう。  そして放課後、スキップをして生徒会室へ向かった。すると手前の廊下で運よく友也を見かけることができた。 「桐生様っ」 悠馬は人だかりの中心にいた彼に声をかけた。友也は驚いたように悠馬を振り向き、周囲の者──中には親衛隊員も混ざっていた──は嫌悪感をあらわした。 「悠馬。どうしてここに」 「桐生様にお会いしたくて」 「なら生徒会の罷免請求をしなければ良かっただろう」 「だってお仕事は嫌いなんですもん」

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