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親愛なる君へ2
「あの子はフェイクだよ。彼女にも好きな女の子がいて、同性愛が叶わない者同士で組んでたんだ。すべてはお互いの利害のために」
にわかには信じがたい友也の発言に、悠馬の頭の中はパニックを起こしていた。友也兄ちゃんが俺を、好きだって? いったいどうしてそんなことになるのだ。
「引いてる、よな。言い訳に聞こえるかもしれないけれど、この咲城学園では同性愛ってあんまり珍しいことじゃないんだ。ほら、初等部から一貫の男子校だろ? 中等部からは全寮制になるし。俺も感覚が一般とは違うんだよ。まあ、だからってわけじゃないかもしれないんだけど、気づいたら悠馬のことを……さ」
友也はおもむろに目を閉じた。そうするとまぶたの裏には自宅のだだっ広いベランダが広がり、鼻腔をかぐわしいバラの香りがくすぐり、口のなかに甘酸っぱいプチトマトの味を感じることができた。
通う学校こそ違ったものの、友也は悠馬の話をよく聞いていたし、夏休みの動物の世話なんかは同じ学校の学生であるふりをして一緒に手伝ったこともあった。
悠馬は乱暴なチャボに蹴られても踏みつけられても、楽しそうに笑っていた。友也はそんなときいつも、自分には到底真似できないと感心していた。
もちろん悠馬は蹴られたり踏みつけられたりすることが──たとえ相手がチャボでも──好きだったからなのだが、常人の友也にはそんなフェティシズムが理解できるはずもなかった。まして小学生から中学生の頃の話だ。
どうして飼育係でもないのに、そんな面倒を引き受けるのか。どうして実行委員ばかり立候補して、縁の下でせせこましく働くのか、悠馬に聞いてみたことがあった。
すると悠馬は満面の笑みを浮かべて、こういう仕事が好きだからねと笑うのだった。
「俺は人に喜ばれたくてそういう雑務を引き受けることはあったけど、悠馬はそうじゃない。すごく純粋だったから」
陽の光みたいにあたたかい友也の言葉に、悠馬は胸をしめつけられた。もちろんすごく不純な男だからだ。そのころ自らの性的嗜好について理解していなくとも、きつい仕事に興奮を覚えていたのは確かだった。
「俺はそんなに純粋じゃありませんよ」
「謙遜しなくていいよ」
「いや、本当に謙遜じゃなくて……。なんか、とにかく頭がパニックなんですけど」
「そうだろうな」
「あの、ええと、友也兄ちゃん。俺のことをその、好きって言うならなんで、俺に伝える前に嘘の彼女なんか作ったのか聞いていい?」
「それは悠馬に伝えたところで、絶対振られると思ったからだよ。それどころか避けられる可能性のほうが高かったし。悠馬は異性愛者だろ」
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