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親愛なる君へ3

 友也は、公立の小学校から一般的な私立の中学、高校へ進学した悠馬を、同性愛者と疑ったことは一度もなかったのだった。  悠馬も友也と遊ぶときは、テレビに出ていたあのモデルが可愛いとか言ってみたり、友也に声をかけてきた女の子のことをわざと一瞥してみたりした。  思春期らしい会話をしておかないとね──。悠馬も自分が同性愛者であることを従兄弟に知られるのは怖かったのだ。それらの発言は結果、友也のなかで裏づけになっていたらしかった。 「う、うん」 「やっぱり男には興味ないんだな。俺のことを追いかけてたのは、何? 面白そうだったから?」 「いえ、その、単純に憧れがあって」 「悠馬が俺のこと好きって言ってるって聞いたけど、その好きは、友だちとしての感情?」 「あ、まあ、人間としてというか」 ここは友也の問いに頷いておかないと、友也と付き合うことになってしまう。外には聞こえないはずだが、冷や冷やしながら答えた。  ここのところ嘘ばかりついていたから、正直な発言はかえって口あたりが悪い気がした。汚れた自分には不似合いなのだ、たぶん。 「だからごめん、友也兄ちゃん。俺、友也兄ちゃんとはそういう関係になれない」 「どうしても?」 「……ごめん」  悲痛な友也の声に、悠馬の胸はぎゅうと痛んだ。それで悠馬はあえて敬語を崩したのだった。ようやく意識が追いついてきた悠馬は、じわじわと友也の想いを感じていた。  まさか友也が自分を好きだったなんて。悠馬も同性愛者ではあるのにちっとも気がつかなかったのは、いつだって悠馬は小柄で可愛らしい男性にしか恋愛意識を向けていなかったせいだった。 「なら、せめて俺のお願いを聞いてくれないか」  罪悪感で息苦しくなってきた悠馬は、せめて友也が言うお願いを聞いてやりたかった。けれどそれは悠馬にとってあまりに残酷な要求だった。 「悠馬、今後八雲と関わらないようにしてくれ」 「なっ……なんで?」 「俺、実は悠馬に告白する気なんてなかったんだ。ずっと、兄のような存在の従兄弟でいようと思ってた。フェイクの彼女を作ってたのも、悠馬との進展を望まない前提だったからさ」  友也はすっと目を伏せた。 「けれどあの遠足で、俺の決意は揺らいだ。悠馬が八雲と仲よさそうに話したり、楽しそうに笑ったりしてるのを見て、俺のポジションが八雲に取られるんじゃないかと思うようになった」 「そんなことないですよ」 悠馬は否定した。事実、友也と氷雨の立ち位置がかぶることはありえなかったからだ。

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