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親愛なる君へ4

 なぜなら悠馬にとって友也は気のおけない親友で、氷雨は憧れの想い人なのだから。 「とにかく俺は焦ったんだ。だから悠馬に生徒会の手伝いをしてもらおうと思った。俺のそばに置いておきたかったんだ、なのに悠馬はそれを拒んだ。署名まで集めて罷免請求をした」  悠馬は何も言えなかった。 「署名を集めている最中も、八雲を押し倒したり抱きしめたりしていたよな」 「押し倒し、っていうのは事故ですよ」 「なら抱きしめたのは?」 「あれはノリっていうか……」 「悠馬、八雲とノリで抱きしめ合うほど仲よかったっけ。この間喧嘩してたよな?」 「ええと、喧嘩するほど仲がいいっていうか」 「八雲は悠馬を本気で嫌がっているように見えたけど。津田も言ってた、悠馬から八雲に懐いてるように見えるって」 「懐いてるのは確かですよ。俺、部活や委員会の先輩によく懐くタイプなんで……」 「そうか。なら悠馬としては辛いかもしれないが、八雲は悠馬と関わりたくなさそうだったし、八雲のためにも距離を置いてくれないか」 悠馬は唇を噛んだ。友也の気持ちを思えばそうするしかないのだろう。  けれどここで頷いたら、悠馬の大好きな制裁でさえ、氷雨と会えなくなる可能性が高かった。友也の権力をもって、親衛隊から氷雨本人を除隊することも大いに考えられたからだ。  悠馬はうなずかないまま、話を終わらせて生徒会室を去ろうと考えた。 「友也兄ちゃんの気持ちはわかったけれど、俺が友也兄ちゃんと恋人になるってのは現実的じゃないよ。申し訳ないけれど、そろそろ俺、戻るね」 「待って!」  友也は悠馬の手を引いた。悠馬は力強い彼の手に抗うことができなかった。 「親衛隊に入ったってことは、俺のこと、他の男よりは好きだよな。最初は本気じゃなくてもいいんだ、お試しで付き合ってみないか? 無理なことはさせないようにするからさ。ゆっくりでいいから」 「い、や、ええと……」 「悠馬もこの高校にいれば意識が変わるかもしれないし、後悔はさせないよ」  そういう問題じゃない。そういう問題じゃないんだ。友也の目元は優しそうでおっとりしていて、まさしく色男の雰囲気を醸しだしていたけれど、悠馬が本当に求めていたのはきつそうなつり目の美少年だったのだ。 「なあ、悠馬」 よほど焦燥にかられたのだろう、友也はその体勢のまま、ぐいと悠馬に顔を近づけた。キス、する気だ──。  そう察した瞬間に悠馬の脳裏に浮かんだのは、氷雨とのキスのことだった。あの得意げな顔が、やわらかい唇が、ふわふわした優しい味がフラッシュバックした。この大切な思い出を、上書きされたくなかった。

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