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好きです、隊長2
「隊長はお前」
「活動拠点は?」
「寮の361号室──僕の部屋だ」
「じゃ、じゃあ」
ごくっ、と唾を飲み込む音が聞こえた。ようやく理解したか馬鹿め、と氷雨は心の中で悠馬を愚弄した。
「他にも隊員を集めないとですね!」
氷雨はがっくりと肩を落とした。
「お前は本当にデクだな……」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないから。隊員集めてどうするんだよ」
「何かおっしゃいました?」
「いや。放課後さっそく『活動拠点』に来い、わからず屋のデクへ僕直々に仕込んでやる」
「はっ、はい。たいちょ……八雲様!」
「氷雨でいい」
「ひっ、氷雨様!」
嬉しそうな悠馬の声に、氷雨はやれやれと鼻で息を吐いたのだった。
それから氷雨がくれた新しい教科書で授業を受け、背後からのシャープペンシルによる攻撃をこころよく受け入れ、隠されたジャージを探し出したりして悠馬は待ちに待った放課後を迎えた。
罵倒のシャワーをきらきらと浴びながら、悠馬はまず図書室へ向かった。そこでサディストの犯行を描いた小説を読み、意欲を高め、氷雨にスマートフォンでメッセージを送った。
『そろそろ行ってもいいですか?』
『いいけど手土産持って来いよ』
なんだかパシリと女王様のやり取りみたいだ。悠馬は胸がわくわくするのを抑えられそうになかった。氷雨の部屋へ行く前に、自分の部屋へ寄ろうと思った。
そして手土産をたくさん抱え、誰にも見られないよう注意して寮の361号室へ向かった。ノックを控えめに三度すると、入れ、と氷雨のぶしつけな声が聞こえた。
「氷雨先輩!」
「でかい声を出すんじゃない」
「あ、すみません。嬉しくてつい」
「誰かに聞こえたらどうするんだ。……って、なんだよその荷物」
「手土産持って来いっておっしゃったでしょう」
「多すぎ。まさか変なこと考えてないだろうな?」
「え、変なことするために呼んでくださったんじゃないんですか?」
「あのなぁ。少しは下心を隠したらどうだ」
「だめですか?」
すっかりおなじみの潤んだ瞳で見つめる悠馬に、氷雨は舌打ちした。
「それ本気でキモいからやめて」
「せんぱい、ひどぉい」
「お前の顔のほうが酷いっての」
辛辣な言葉を浴びせれば浴びせるほど、ぶりっこを演じる悠馬の笑みは深くなっていった。氷雨は吐き気を抑えつつ、悠馬に紅茶をいれてやった。
甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐった。悠馬はソファに遠慮がちに腰かけ、いただきますとしおらしく礼をした。そして眼前のミニテーブルに置かれた、鮮やかな赤色をした紅茶に口をつけた。
「あ、思ったより酸っぱい」
「ローズヒップだよ、飲んだことないのか?」
「父さんがハーブティー苦手だったもので」
苦笑いしながら悠馬はソファ横に置いた自分の鞄を持ち上げ、中に手を入れた。
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