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ふざけたウサギの2

「氷雨先輩?」 さすがに怪訝に思った悠馬がそう声をかけると、氷雨は悠馬に距離をつめ、悠馬の肩に爪を食いこませた。悠馬はソーサーに食べかけのチョコレート菓子を置き、ごくりと喉を鳴らした。 「初等部のころ、これを桐生からもらったんだ。僕はそれ以来このお菓子に思い入れがあった」 「そうなんですね、嬉しいで……っ」 言い終えるか言い終えないかのところで、氷雨は悠馬の首すじにかぶりついて歯を立てた。さながら吸血鬼のように。  悠馬はうめき声をあげたが、やはり口元は嬉しそうにゆるんでいた。氷雨は歯を外すときにわざと悠馬の首すじを舐めた。悠馬はふるりと身体を震わせた。 「ゴミ、変態、生きてる価値あるの?」 「ありません……」 「なんでそんなお前の描いたヘッタクソなウサギのチョコレートを、桐生は僕に持ってきたんだよ」 「わかりま、せ」 氷雨は悠馬にのしかかり、何度も何度も悠馬の首すじに噛みついた。先ほどの勢いはなかったものの、くっきりと歯型がつき、悠馬に痛みと十分すぎる愉悦を与えた。 「これで懲りたか? ……いや、お前が懲りるわけないか」 「よくご存じで」 氷雨はいらだちを情欲に昇華させたようだった。頬を赤らめ、憎しみと期待の入り混じった目で悠馬を見つめた。  悠馬は氷雨の挑発に乗り、彼に腕を伸ばしぎゅうと抱きしめ、そのままゆるやかに床へ転がり落ちた。悠馬が手を回していたために背中はぶつけなかったものの、身体には鈍い痛みがあった。 「おい」 氷雨が抗議めいた声を投げかけると、悠馬はにんまり笑った。その声色から、氷雨がひるんでいることがわかったからだ。悠馬はこれ幸いと体勢を逆転させ、氷雨を見下ろした。 「先輩。俺、懲りてないんで」 「だから罰が欲しいとでも?」 「氷雨先輩のそういう察しがいいところ、好きです」 悠馬は余裕ぶって言った。それを聞いた氷雨はにんまり三日月みたいに口角を上げ、悠馬の肩に爪を食い込ませたのだった。  悠馬が氷雨の服を剥がしても、氷雨は冷めた目で見つめるばかりでろくな抵抗はしなかった。調子に乗ればたちまち蹴りが飛んできたが、それも戯れのひとつに思えて、悠馬は楽しそうにことを進めたのだった。  氷雨は愉悦に身を奪われるたちではないようで、いやに整った唇の端から甘い吐息を漏らすばかりだった。それでも悠馬は至極満足したようで、愛おしそうに氷雨に口づけ、舌で舌をもてあそんだ。  そうすると決まって氷雨は悠馬を憎々しげに睨みつけたが、悠馬にとってはかえってそれが興奮をあおるものでしかなかった。存分に戯れを楽しんだところで、悠馬は氷雨を抱き上げてベッドへと運んだ。

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