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ふざけたウサギの4

 悠馬はそれでもそれなりには病んでいたので、自ら大きめの結束バンドを氷雨に手渡して自身の手足を縛るようにお願いした。縄ではなく結束バンドを選んだのは、思っていたより氷雨がこうしたプレイに慣れていないようだったからだ。  氷雨は呆れたと言わんばかりにため息を吐きながら、鞭を一旦置いて悠馬の手足を拘束してやった。まったく、僕は何をやっているんだろう。視線を落とせば期待に満ちた悠馬と目が合った。お望み通り氷雨は、鞭を持ち直して大きく振りかぶり、彼を打ちつけた。悠馬は醜い声で鳴いた。  悠馬の身体にくっきりついた赤い鞭の痕は、赤い糸とは比べものにならないくらい卑しくてたちが悪いものだった。しかし運命の相手を示す神聖な糸よりも、その痕はよほど氷雨の目を奪うのだった。  氷雨はそんな自分を誤魔化すためか、悠馬にありとあらゆる罵声を浴びせた。しかしそれこそが悠馬にとって最高の前戯となるようだった。彼の中心が弾けそうになるたび踏みつけたり押さえつけたりしてみれば、悠馬は苦痛と愉悦の入り混じった表情を浮かべた。  だんだん興奮してきた氷雨が悠馬の上に馬乗りになると、悠馬は氷雨の望むとおりにした。そうするとさすがの氷雨も快楽には抗えないようで、甘やかな声を漏らし、焦らしながらも身体の向きを変え悠馬を許し、二人は一つになった。  ──行為を終えると氷雨はぐったりとベッドに倒れ込んだ。悠馬ももちろん疲弊していたが、それよりも氷雨と理想のプレイができ、身体を繋げられて感無量といった様子だった。悠馬はいそいそと氷雨の隣にもぐりこんだ。 「あの……氷雨先輩」 「何」 「順番が逆になっちゃいましたけど、俺たちちゃんと付き合いま──」 「付き合うわけないだろ」 悠馬の言葉を遮って氷雨は言った。 「えっ、なんで、やることやったじゃないですか」 「やることやっても僕はお前が嫌いだ。いやむしろやる前より嫌いになった。お前がここまでドMの変態だとはな」 「そんな今さら。じゃあ普通に抱いたらよかったんですか」  悠馬のそんな言葉に、氷雨は一瞬うろたえた。もし、普通の行為をしていたら。たくさんキスをして、抱きしめて、愛の言葉をささやいて──いや、それだって単なるおままごとだ。氷雨は綿飴みたいにふわふわした甘い想像を軽く振り払った。 「とにかく僕はお前と付き合わないからな」 「あれだけ思わせぶりなこと言っておいて……。そうしたら俺の氷雨様親衛隊としての活動はどうなるんですか」 「そうだな、僕が気が向いた時に呼んでやるよ」 「セフレってことですか?」 「フレンドですらないし。ただの便利要員かな」 そう意地悪く笑う氷雨は、やっぱり誰よりも綺麗だったものだから、悠馬はしばし見とれてしまった。

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