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恋人条約1

 それから氷雨は何度か悠馬を呼び出した。三日おきだったり二週間おきだったり頻度はまちまちだった。そのたびに氷雨は悠馬に鏡の前で自慰をさせてみたりきつく罵倒したり、悠馬が持参したいろんな道具で彼を痛めつけたりした。  そのくせ氷雨は悠馬からのデートの誘いにはいっこうに頷こうとしなかった。どんなアクティビティも遊園地も映画館も博物館もショッピングも、お前とは行きたくないと一蹴するのだった。  進展しない関係性と反比例するかのように、二人の行為はどんどんエスカレートしていった。氷雨の愛が得られないと知ったせいか、悠馬は血と傷痕と過激な暴力を求めた。応えるように悠馬を赤く染め上げれば染め上げるほど、虚しいからっ風が氷雨に吹きつけた。  決まって明け方に氷雨の寮の部屋を出て行く悠馬のことは、次第に噂となっていった。彼は日を追うごとに巻いている包帯の量が増え、授業中にふらふらと足を引きずっていることもあった。  噂はとうとう生徒会長の友也の耳へ届いた。はじめは氷雨と悠馬の二人が付き合ったのかと思い詳細を聞かないようにしていたのだが、悠馬が怪我をしているとすれば話は別だ。友也は二人を生徒会室に呼び出そうかと思ったが、やはり思い直して氷雨だけを呼びつけることにした。 「佐野悠馬の件か」 生徒会室に入るなり氷雨はぶしつけに言った。親衛隊を抜けてから氷雨は友也への敬語をやめていた。 「わかっているなら話が早い。悠馬が怪我をしているのは八雲のせいなんだな」 「アイツが僕に暴行してくれって言うからね。応えてやってるだけ」 「そんな口からでまかせの嘘……」 「嘘じゃないよ。トーク見せようか」 氷雨は制服のポケットからスマートフォンを取り出し、トークアプリの画面を開いたが、改めて見るとかなり露骨に肉体関係のわかるやり取りだったので友也に見せるのを躊躇した。  氷雨が眉間に皺を寄せていたため、友也はあえてスマートフォンを見せてもらおうと要求はしなかった。 「悠馬とは付き合ってるのか」 「付き合ってないよ。安心して」 「ならなんで部屋に呼んでるんだ」 「なりゆきかな。あと面白いから?」 氷雨がふっと笑ってみせても、友也はかたい表情を崩さなかった。 「アイツをからかうのはやめてやってくれないか」 「別にからかってるわけじゃない」 「普通は部屋に呼ばれたら、まともな関係になるのを期待するだろ」 「お前んところの従兄弟はまともじゃないからな」 言うやいなや、友也は机を叩き、大きな音を立てた。氷雨は反射的に肩をびくつかせた。

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