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ランチたわむれ1

 ──デート、か。氷雨は友也とのデートを何度か想像したことがあった。近場で花火大会があると聞けば、浴衣を着て手をつないで仲睦まじく歩くカップルを羨ましく思ったし、見晴らしのいい公園に寄ったときはこの景色を友也と眺めたいと思ったものだった。  優しい友也のことだ、きっとデートの間は微笑みかけてくれる。手ぐらいは繋げるかもしれないし、少なくとも友也のことを隣で、一番近くで見つめることができる。氷雨は口元がほころぶのを自覚していた。 「あ、隊長!」 その後昼食を取ろうと食堂に入った氷雨は、明るい声に呼びかけられた。氷雨は歩みを止めずにA定食のトレーを取り、食堂の隅へと向かい、端の空席に座った。 「お前か。僕はもう隊長じゃない」 「そうでした、氷雨様」 氷雨に声をかけた悠馬は、自身も昼食のトレーを取り当然のように向かいに腰掛けた。氷雨は彼の顔に貼られた痛々しいガーゼを見ながら舌打ちした。 「向かいに座るな」 「いいじゃないですか。氷雨先輩、普段よりずいぶん機嫌が良さそうですし」 氷雨は身体をぴくりとさせた。 「なんか良いことありました? あ、もしかして斬新なプレイを思いついたとか」 「違う。公然の場でプレイとか言うなよ」  氷雨はため息をつきながら、定食の鮭に箸をつけた。丁寧に皮と身をはがして口に入れるその所作を、悠馬はうっとりと眺めた。 「何。気持ち悪いんだけど」 「氷雨様は箸づかいも美しいんだなと」 「当然だろ。食については特に厳しく躾けられたんだから」 「会食の機会とか多そうですもんね」  そう返すと、悠馬は味噌汁に口をつけて破顔した。 「味噌汁好きなの? 庶民って感じでお前にお似合い」 「お褒めにあずかり光栄です」 「褒めてないから。今日は鰹だしが強めだな」 「よくわかりますね。俺はなんかおいしいなーってすすってました」 「好きなわりには雑だな」 「だしとか良く知らないんですよ。母は家を空けてることが多かったですし、お手伝いさんがいたわけでもなく食卓はレトルトが多くて」 「だから家庭の味に憧れがあるとか?」 「そんなとこですね」

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