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ランチたわむれ2

 そういえばめちゃくちゃな行為にまで及んでいたわりに、氷雨は悠馬のことを〝良く知らな〟かった。好物について聞いたのも初めてだし、家庭環境についても表面的な情報しか得ていない。そもそもこんな風に世間話をする機会そのものがなかったのだ。 「ご機嫌ついでに、氷雨先輩。いまCMもやってますけど、新作のスプラッタ映画が公開中なんですよ」 「まさかそれを僕と一緒に観たいとか言わないよな」 「えっ、観ましょうよ」 「嫌だ」 「スプラッタお嫌いですか?」 「むしろ、意中の相手をスプラッタ映画鑑賞に誘う奴が嫌いだな」 「じゃあラブストーリーならいいんですか? 俺ぜんぜん観たくないんですけど」 「そういう問題じゃないだろ」  ため息を吐きながら氷雨はいんげんのごま和えに手を伸ばした。あ、コイツこういうおかずも好きそうだな、なんて悠馬を見やると、彼はにんまり微笑んだ。 「じゃあ氷雨先輩の理想のデートは何ですか」  理想のデート。友也からもそんなメッセージが送られてきていた。何度も何度も想像したそれが、今、形だけでも実現しそうになっている。しかし悠馬はそんなこととはいざ知れず、氷雨を慕って笑っていた。 「俺、氷雨先輩のためなら何でもしますよ」 食堂の窓の隙間から入り込む涼やかな風に乗って、悠馬の声が氷雨の胸にずしりと響いた。この男は文字通り何でもする。たわむれの言葉ではないことを、氷雨はよく知っていた。

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