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グダグダクッキング4

 氷雨は悠馬を急かし、フキの処理についてスマートフォンで検索をさせ、それを見ながら二人でフキの皮を剥いた。 「こうしてると本当に結婚……」 「その口縫ってやろうか」 「お願いします」 「拒否しろ馬鹿」  そうして皮むきを終えたフキを水に入れ、アク取りのために置いておいた。その間に味噌汁の火を入れ、豆腐を切って入れる。氷雨も悠馬も包丁に慣れていないため、ぐちゃぐちゃに崩れてしまった。 「このグズ」 「氷雨先輩だって下手くそじゃないですか」 「今何て言った?」  氷雨はためらいなく悠馬に包丁を向けた。悠馬は夢見心地と言わんばかりに微笑んだ。 「なんか夫婦げんかで包丁向けられてるみたいですね」 「お前本当おめでたいよな」 「結婚したら家柄的に俺が八雲姓になるんですかね。八雲悠馬ってめちゃめちゃカッコよくないですか?」 「めちゃめちゃダサい」  悪態づいても喜ばせるだけというのはいいかげんわかってはいるのだが、氷雨はなんだか言わずにはいられなくなるのだった。元来口が悪いのだ。結果的に悠馬を幸せに導く誹謗中傷ばかりがするする出てきてしまう。  料理以外のことばかり精を出してしまったためにかなり時間がかかってしまったが、味噌汁をふつふつと沸騰前まで煮立たせ、フキにだし汁をかけて鰹節を散らし、ほったらかしになっていた牛しぐれの味が染みておいしくなったところですべてを盛り付けておかずが完成した。  炊飯器からご飯をよそい、おかずの皿を並べて二人はようやく食卓についた。いただきます、と一礼して味噌汁に口をつける。 「おいしい。これが煮干しで取っただしなんですっけ」 「そうそう、冷蔵庫で水出ししておいたやつだな。もっと時間かけて置いておいたほうが良かったらしいけれど」 「十分うまいです」  悠馬は花がほころぶように穏やかな笑みをたたえた。つられて氷雨も口元をゆるませた。 「氷雨先輩のそんな柔らかい顔、初めて見ました」 「お前がいつもいつも僕を怒らせるからな」 「先輩にきつく当たられたいんですもん。でもやっぱり……優しそうな顔も、素敵です」 「あっそ」 自分だってそんな安堵の表情見せたことほとんどないくせに、と内心悪態づきながら、氷雨はしぐれ煮をつついた。 「フキもおいしいですね」 「だろ?」 「渋みとだしの旨みがうまいです」 「日本語崩壊してるけど」 フキのおひたしを食べて悠馬はとんちんかんな発言をし、氷雨は首をひねらせた。  和やかな食卓。あんまりこういうのは経験したことがないな、とお互い思っていた。悠馬の家は両親不在でレトルトばかり、会話もろくになかったし、氷雨は氷雨で厳格な母とともに家政婦の作った料理を黙々と食べていたので、いつも張り詰めた空気のそれしか思い出になかった。

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