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見てしまったトーク1

 洗い物を終えると二人はスウェットに着替え、ぐったりとベッドに倒れこんだ。氷雨はさっさと寝ようと思っていたし、悠馬は体力の限界を迎えて悔しそうにしていた。明日のためにアラームをかけて眠ろうと悠馬がスマートフォンに手を伸ばすと、氷雨のそれが光っているのが目にとまった。 「先輩、通知来てますよ」 「ん……なんだろ。取って」 悠馬は氷雨のスマートフォンを彼に手渡そうとした際、画面のポップアップ表示が目に入った。  悠馬がそれをじっと見つめてこちらへ渡そうとしなかったため、氷雨は気がついた。そこには友也からのメッセージがあったのだ。あんなに気にしていた誘いだったのに、氷雨はいつの間にかそのことをすっかり忘れていた。 「デートって……なんですか。最近機嫌良さそうだったのはこのせいですか」 「お前には関係ないだろ」 「関係ありますよ! 今日なんか二人でご飯作っておいしく食べて一緒に片付けていっぱいいちゃいちゃして、俺すごく幸せだったのに。こんなの二股じゃないですか。友也兄ちゃんにも失礼だ」  氷雨はうろたえた。 「……お前さ、僕の言うことなら何でも聞くとか言うわりに、僕のことはきっちり批判するのな」 「批判くらいしますよ。だって俺、氷雨先輩のこと大好きだから」 悠馬からの愛の告白なんて耳にタコが出来るほど聞いてきたのに、このときばかりは氷雨は言葉をつまらせた。 「氷雨先輩、断ってください。友也兄ちゃんとデートなんかしないで」 「お前に指図されたくない……」 「指図じゃない、お願いです。どうか行かないでください。せんぱい」 悠馬はすがるように氷雨を後ろから抱きしめた。氷雨はすぐに彼の腕をのけ、悠馬と向かい合うように寝返りした。 「僕は初等部のころからずっと桐生のことが好きだったんだ。なんで知り合ったばっかりのお前の言うことを聞かなくちゃいけないんだよ。それとも僕がお前に心かき乱されるとでも?」 「かき乱されてるじゃないですか」 氷雨の頬に手を添えて悠馬は言った。氷雨はかっとなって彼の指を口に運んで噛んだ。 「いっ……」 「こんなことされて喜ぶ変態に誰が心揺れるって?」 「だから氷雨せんぱ……う」 氷雨が悠馬の手首をつかみ直して反対側にひねると、悠馬は愉悦に目尻を下げた。

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