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見てしまったトーク2
「友也兄ちゃんにはこんなことできませんよ」
「桐生は変態じゃないからな」
「変態もくせになると思いませんか?」
「思わない」
「優しくて人格者でイケメンのほうがいいって言うんですか」
「嘘つきでマゾヒストでフツメンの奴よりよっぽど良いだろうな」
「誰ですかその救いようのない奴」
「お前だよ!」
「酷いなあ。氷雨先輩も人のこと言えます?」
「何。僕が高飛車のサディストとでも言いたいの」
「自覚あったんですね。どっちかって言うと高飛車よりも意地っぱりですけど」
「意地なんか張ってない」
「それは自覚ないんですね……あででっ」
意地っぱりでサディストで美少年の氷雨は、先ほどよりも強く悠馬の手首をねじった。
ああ、体力が残っていたらこのまままた覆い被されたのに、と悠馬は口惜しそうな顔をした。一連の氷雨の体罰で、例にもれず悠馬は興奮していたのだった。
「それで、結局行っちゃうんですか。友也兄ちゃんとのデート」
「……決めるのはお前じゃない。僕だからな」
氷雨は悠馬から自分のスマートフォンをひったくるようにして受け取り、友也への返信を打って布団をかぶった。悠馬に残されたのは手首の甘い痛みだけだった。
翌朝、悠馬がアラーム音で目を覚ますと氷雨はもうベッドにいなかった。コーヒーの香ばしい匂いが悠馬の鼻をくすぐる。眠い目をこすって部屋の中央へ向くと、制服に着替えを済ませてマグカップに口をつけた氷雨と目が合った。
「言っておくけどお前のぶんは無いよ」
「わかってますよ。それより学校サボりませんか」
「なんでだよ。サボるわけないだろ」
今日は金曜日だ。身体は鉛のように重いが、高等部の授業はもちろんそんな事情を加味してくれるわけもない。
「友也兄ちゃんと氷雨先輩がうまくいったら、もう先輩とこうしていられるのは今日で最後かもしれないから。今日一日くらい一緒に過ごしたいです」
「……『最後とか勝手に決めるな』って、前に言ったよな」
「え」
「同じことを言わせるな」
氷雨はコーヒーを飲み干してマグカップ片手に立ち上がり、さっと洗ってカゴに置いた。
「それは、つまり……」
「今日桐生と話す。それがすべてだ」
そう言うと氷雨は棚からカードを取り出し、悠馬に向かって放り投げた。
「カードキー?」
「それ予備のやつ。施錠しといて」
「ああ合鍵ってことですか先輩!」
大声をあげた悠馬の問いに返事をせず、氷雨はそのまま部屋を出た。一人になった悠馬はひとまず氷雨がよこしたカードキーに頬ずりをし、登校する準備を終えて退室し、氷雨の言いつけどおり部屋に鍵をかけた。
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