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荷造りは乱雑に2
「お前さっそく鍵使ったの? ほんとに堪え性無いな。その荷物何?」
「堪え性がなくてすみませんね。これは俺の荷物です」
「また変なもの持ってきたのかよ、やっぱ救いようのない奴。とりあえず僕は今日もらった書類記入しちゃうから、お前は──」
横で大人しくしてろ、と続けようとした氷雨の言葉を悠馬は遮った。
「出て行きますよ。先輩勘違いしてるみたいですけど、たまには聞き分けの良い奴でいさせて下さい。今までありがとうございました」
早口にまくし立てて軽く一礼し、氷雨を振り切ろうとする悠馬。しかし氷雨は腕を伸ばして壁に片手をつき、悠馬の行く手を阻んだ。
「何言ってんの」
「俺は邪魔でしょう。俺の痕跡残さないように全部引き上げたんでご心配なく」
「は? なに勝手なことしてんの」
「勝手なのは氷雨先輩でしょう!」
「こんなとこで大きい声出すなよ……」
「とにかく俺、自分の部屋に戻ります」
「待て」
氷雨は強引に悠馬の手を引き、空いた片手で自分の部屋に彼を荷物ごと押し込もうとしたが、華奢な氷雨に比べて悠馬のほうが体格が良い。そのため、氷雨はよろけてしまった。悠馬はとっさに氷雨を腕の中に抱きすくめ、そのまま部屋の中に荷物を放り投げ、内側から扉を閉めた。
「なんで俺を引きとめるんですか。また得意の思わせぶりですか」
「……ふりじゃない」
氷雨は悠馬の胸に顔をうずめながら答えた。くすぐったい。でも二股をかけられるのは勘弁だ。悠馬は毅然とした態度を取ることにした。
「ふりじゃない、って。俺も噂聞きましたよ。友也兄ちゃんと上手くいったんでしょう」
「は? 桐生の提案なら断ったよ」
氷雨は顔を上げてぶっきらぼうに言った。
「え……えっ? 俺のお願いあれだけ突っぱねてたくせに、なんで断ったんですか。先輩にとってはチャンスだったのに」
「理由は言いたくないから言わない」
「ええー……」
「とにかく断ったんだからいいだろ。……少しこのままでいさせてよ」
悠馬の腕の中は存外心地よかったようで、氷雨は目を細めて猫のように顔をすりつけた。
「俺の腕の中、気持ちいいですか」
「……うん」
素直な先輩もかわいい。そう思った悠馬は氷雨に軽いキスをした。軽快な音が二人の心をほぐす。
「桐生のデート断った理由、言わなくてもわかったろ」
「よーく身に染みましたよ」
ふふふ、と悠馬が笑うと、氷雨が思い切り顔をしかめた。
「気持ち悪い笑い方」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないから」
言い終えるか終えないかで、氷雨はくくっと笑いをこぼした。
「これでこのやり取り何回目?」
「何回目でしょうね」
悠馬も氷雨につられて笑った。
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