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思いきり甘やかして1
ひとまず氷雨はあえて丸テーブルで受験関係の書類に取りかかり、悠馬はその横で課題を広げた。うんうん唸る悠馬の隣で、氷雨はとっとと記入を終えたらしく書類を鞄にしまった。
「氷雨先輩、わかんないとこあるんで教えてもらえませんか」
「自分で考えろよ」
「考えてもわかんないんですよ」
「ったく、しょうがないな。どれ」
「これ……」
「あー応用。引っかけだよこれ。たぶん2つ公式を使うんだろ」
「え、2つ……? あ、なるほど! わかりましたこれでやってみます」
「さっさと終わらせろよ」
氷雨は悠馬を残して立ち上がった。
「どこ行くんですか」
「シャワー」
吐き捨てるように言ったくせに氷雨の耳は赤くなっていた。悠馬はいろんな感情が暴走して思わずむせてしまった。
「課題終わった?」
やがてシャワーからあがった氷雨は、大きめのTシャツにボクサーパンツのいでたちで悠馬にそう問いかけた。氷雨の薄く筋肉のついた太ももが悠馬には白く眩しく見えた。
「も、もうちょっとなんですけどわかんないとこがあって」
「はぁ? クズなだけじゃなくてのろまの〝グズ〟なの?」
「へへへ。ここなんですけど」
「罵倒されて嬉しそうにするな。これはさ」
悠馬の課題のテキストをよく見ようと身を乗り出した氷雨の服のすそから、悠馬は手を差しこんだ。
「ちょ、ちょっと」
「先輩がかわいいから」
「ほんっと堪え性なさすぎ。早くシャワー浴びてこいよ」
「とりあえず触らせてもらえませんか。最後までしないんで」
悠馬は軽く氷雨を押し倒した。
「駄目」
「いいでしょ」
「僕が耐えられないんだよ。言わせるな」
ごまかすように腕を伸ばして悠馬の首をしめながら氷雨は言った。
「せんぱ……っ、あ」
悠馬は以前そうしてしまったように、またしても快感に耐えきれず弾けさせてしまった。今度は氷雨の言葉も相まって不意打ちだったのだ。氷雨はぱっと手を離してがなった。
「この早漏! 信っじらんない! 早くシャワー行け変態」
「はいっ」
悠馬は慌ててスウェットを引っつかみ、脱衣所へと駆け込んでいった。
十五分後。
「せんぱい!」
「うわっ」
ベッドで無防備にくつろいでいた氷雨に、シャワーを終えた悠馬が道具を両手に乗りかかった。
「盛りのついた犬……」
呆れながら氷雨は道具をのけた。
「今日はそういうプレイはしない」
「えっ」
「今日ぐらいは僕のこと」
氷雨は言葉を切って腕を広げた。たまらず悠馬はぎゅうと氷雨を抱きしめた。
「思いっきり甘やかしてよ。これは命令」
「仰せのままに、氷雨様っ」
悠馬は嬉しそうに言葉尻を上げて応えた。
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