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思いきり甘やかして4
「おいまさかあのSNSに犯行声明みたいな噂を投稿したのって」
氷雨は驚きに目を剥いた。悠馬はばつが悪そうにうなずいた。
「それはやっちゃ駄目だろ」
「ごめんなさい。反省してます」
「まあ今さら桐生に謝ってもなんか……桐生が更にダメージ受けそうだからやめておいたほうが良いと思うけど。そもそもなんでそんなデマを投稿しようと思ったんだよ」
「合同遠足の話聞いて、どうにかして氷雨と一緒に班を組めないかと思って……」
ぴく、と氷雨の眉が動いた。何か思うところがあったようだ。
「それで僕はまんまと悠馬の策にハマったってわけか。ほんっとどうしようもない奴」
「返す言葉もございません」
「だろうな。お前みたいなドクズは野放しにしておけないね。僕が首輪つけておいてやるよ」
言いながら氷雨は悠馬の首に腕を伸ばし、ゆるく指を巻き付けるようにした。首を絞めるというよりも、首輪を作るような仕草だった。悠馬は喜びと動揺を隠せず、声にならない声を出した。
「返事は?」
焦れたように氷雨が聞いた。
「わんっ!」
「よろしい」
元気よく吠えた悠馬に、氷雨は至極満悦して彼の頭を両手で撫でた。完全にペットの犬扱いだ。
「でも僕が飽きたら首輪外しちゃうかもね」
氷雨はつ、と悠馬の首を指先でなぞって言った。悠馬はぞくりと身体を震わせた。
「飽きさせないし振らせないって言ったでしょう」
「お手並み拝見だな」
にんまり微笑んだ氷雨の口は、半月のような弧を描いていた。
翌日の明け方、悠馬は夢うつつで氷雨を抱き寄せた。氷雨は鬱陶しそうに唸った。まだ眠いのだ。そんな氷雨の反応をまるでもって無視し、悠馬は氷雨の背中に唇をあてた。
「おい、もうちょっと寝かせろよ」
「やだ」
「そんなガキみたいなこと言うな、って、ちょっと」
悠馬はろくに氷雨を慣らそうともせず強引にことに及ぼうとした。氷雨は太ももの裏がやけに熱く感じた。
「氷雨は無理矢理されるの好きでしょ」
「好きなわけない……っ」
「キッチンで俺に犯されて興奮したくせに」
氷雨をわざと煽るように悠馬はささやいた。かっと頭に血が上ったのは、怒りからかそれとも図星だからか。
気がゆるんだその一瞬に結局悠馬を許してしまい、氷雨はせめてもの反抗として、自身に回された腕にぎりぎりと爪を食い込ませたのだった。
「痛くて気持ちいいよ、氷雨」
悠馬は恍惚の表情を浮かべた。
「僕は、痛いばっかりなんだけど!」
「嘘つき」
「悠馬にだけは言われたくない」
棘を含んだ物言いをしても悠馬は喜ぶだけだ。口先とは真逆に快楽の海へ溺れそうになりながら、氷雨はベッドの上でもがいたのだった。
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