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思いきり甘やかして5

 そうして行為を終えてから怠い身体を引きずり、二人は一人ずつ交替でシャワーを浴び、おのおの歯を磨いた。悠馬は一緒にシャワーに入りたがったが、氷雨はまた襲われたら出かけられなくなると思って拒否した。 「朝からさんざんな目に遭った……」 氷雨は下着と、ストレッチのきいたカジュアルなスラックスだけを履いた上半身裸の状態でクローゼットを開けた。彼の首筋には悠馬がつけた痕が赤くのこっている。悠馬は服を選んでいる氷雨の後ろから、その痕をなぞるように唇をあてた。 「ちょっ、と、悠馬」 抗議の意を込めて氷雨は悠馬を振り返り、睨みつけてみせた。しかし悠馬にはそんなものもちろん通用しない。 「また朝すればいいって言ったの氷雨先輩じゃないですか。それにすごい声出てっ──」  悠馬の挑発は、バシッ、と氷雨がベルトを悠馬に叩きつける音で遮られた。クローゼットから出された鞭代わりのそれは、本来スラックスに通されるはずのものだったというのによくしなった。悠馬は甘美な感覚に一時身を委ねた。  悠馬はTシャツにスウェットを履いた姿だったが、脱いでおけばよかったと後悔した。素肌に当たったらもっと刺激的だっただろう。 「声なんか出してない」 氷雨は口をとがらせた。 「嘘つき。俺覚えてますよ」  真実は悠馬の言うとおりだった。氷雨は普段嬌声を抑えるようにしているのだが今朝は耐えきれず高い声をあげ、悠馬の名を何度も呼んでいた。  悠馬と行為を重ねていると自分が自分でなくなるような気がする。それを怖いと思えるほど、氷雨はうぶではないのだけれど。 「……次無理矢理したら包丁でそれ切り落とすって言ったよな」 氷雨は悠馬の下半身を指さして言った。 「切ったらもうできなくなっちゃいますよ。それでもいいんですか?」 からかうような悠馬の口ぶりに氷雨は苛立ち、彼のそれ目掛けて思いきりベルトを振り下ろした。 「はううう」 「気持ち悪い声出すんじゃない。お前ドMのくせになんであんな真似したんだよ」 「言ったでしょ。氷雨を飽きさせないって」 いくらマゾヒストの悠馬だとて、さすがに下半身にベルトを喰らえば激痛どころの騒ぎではないはずだ。しかし悠馬は涙をにじませながらも、満面の笑みを浮かべたのだった。 「……ほんっといい性格してるよ、お前」 「お褒めにあずかり光栄です」 「褒めてないから。嫌味だよ嫌味」  氷雨は舌打ち混じりに言い放つと、悠馬にさっさと帰って準備しろと促した。悠馬はなかば追い出されるように氷雨の部屋をあとにして自分の部屋に戻り、その後準備を終えた二人は寮の入口で待ち合わせたのだった。

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