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理想のデート1

 悠馬と氷雨は学園前のバス停へ向かった。途中で事情を半端に知っている生徒たちからじろじろと不躾な視線を向けられたり、あからさまにひそひそと噂話をされたりしたが、そのどれも氷雨が睨んでみせると小さな悲鳴とともに顔をそむけるのだった。  やがてやって来たバスに乗ると、先に乗っていた女子高生たちが悠馬と氷雨を見て色めき立った。 「ねえ、ここから乗ってきたってことは今の人たち咲城生じゃない?」 「しかも黒髪の人見た? めっちゃイケメン!」 「イケメンっていうか可愛い系?」 「えー、でも王子様みたいだよ」 「いいなあ。あんな彼氏欲しー」  こちらに聞こえてもいいと思っているのか、彼女たちは声量を抑えずやいのやいのと好き勝手な発言をしていた。世間的に咲城学園生というのはブランドになっており、その制服を身にまとっているだけで一目置かれる。それでいて氷雨のような美少年であれば余計話題になるのだろう。  しかし咲城学園の中にいると氷雨は可愛いだの麗しいだのと女性的な評価を受けがちだが、一歩外に出てみれば王子様だの彼氏にしたいだの男性として評価されるのだな、と悠馬は思った。  今後氷雨と気が合う異性が現れる可能性も無くは無いのだ。そんな女の子が氷雨と釣り合うような美少女だったらどうしよう。俺に勝ち目はないんじゃないだろうか。美しい氷雨と十人並みの自分は誰がどう見たってあべこべなのだから。  思考の海に手足をとらわれた悠馬に、氷雨は彼の顔を覗きこんで声をかけた。 「どうしたの」 「別に……」 「もしかして今の気にしてるの?」 氷雨の問いに、悠馬はあいまいな作り笑顔を浮かべた。その瞳があんまり寂しそうで切なげで、氷雨はいつかの時のように悠馬の表情から目が離せなくなってしまった。 「……そんな顔するなよ」 「慰めてくれるんですか?」 氷雨の意外な言葉に悠馬はこわばった顔をいくぶんほぐした。氷雨はわざと冗談めかしてこう返した。 「悠馬のヤバいところは顔かたちじゃなくて内面だろ。むしろその普通な顔面、悠馬の中で一番良いところじゃないの」 「……ははっ。先輩に慰められるなんてなんか不思議。でも、そうですね、『お褒めにあずかり光栄です』」 「だから褒めてないっての」  こつん、と氷雨は悠馬を軽く叩いて苦笑いを浮かべた。そして改めて悠馬に向き直った。 「……それに、今日の服はなんていうか……悪くない、かな」 「似合ってます?」 悠馬はグレーのクルーネックセーターの下に白いカットソーを見せ、黒のジーンズを合わせていた。シンプルがゆえに地味な顔立ちの悠馬にはしっくりきているように見えた。

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