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理想のデート2
「意外とこなれてる感じ……うわ、だらしない顔するなよ気持ち悪い」
氷雨が褒めると悠馬はあからさまに破顔した。目尻を下げ、頬なんてゆるゆるだ。
「褒められて罵倒されて俺いま最高にハッピーです」
「本当におめでたい奴だな」
氷雨が口角を上げると、それを盗み見ていた先ほどの女子高生たちから小さな歓声が上がったのだった。
バスと電車を乗り継いで、悠馬と氷雨は水族館の最寄り駅で降りた。ここから歩いて五分のところにある大型商業施設の一階に、先に寄る予定のパーラーが入っている。歩いていると氷雨を見た同年代の女性がやはりざわついた。
「今の人モデルかなんかかな」
「えーモデル? 小っちゃすぎでしょ」
ぴく、と氷雨の眉毛が上がった。
「もっと身長あればねー」
「やっぱ付き合うならちょっとねー」
「……お前らとなんか絶対絶対付き合わないし」
「ですよね。失礼だな」
憤る氷雨の横で、悠馬が珍しく眉をつり上げて低い声で呟いた。……怒ってるんだ、僕のために。氷雨が悠馬をちらと見上げると、普段のへらへらした彼からは考えられないような顔つきをしていて、氷雨はじっと見入ってしまった。
「何かついてます?」
「え、いや」
氷雨の視線に気がついた悠馬は険しい顔をすっと戻し、首をかしげた。そのオンとオフの切り替えに氷雨は驚いた。なんて顔するんだよ、コイツ。
「じゃあ先輩、気を取り直して行きましょう! せっかくのデートなんだから」
悠馬は氷雨が他人からの無遠慮な悪口に傷ついて固まっていたのだと解釈し、氷雨を元気づけようと手をぎゅっと握って目的の方向へ歩みを進めようとした。
「引っ張るなよ……」
氷雨は苦笑いしながらも、彼なりに自分を気遣っているのが指先から伝わって、胸がじんわり温かくなるのを感じていた。
大型商業施設の入口横にはみかんジュースの出る蛇口があるようで、十代や家族連れが列をなしていた。その横をすり抜けてパーラーに入ると、秋らしいぶどうのパフェの看板が目を引いた。
店内には主婦や二、三十代のカップルがちらほらおり、氷雨が言っていたとおりわざわざこちらを気にしてくることはなさそうだった。奥の席に案内され、二人はまずモーニングのメニューを開いた。
「サンドイッチにしようかな」
「僕もそうする。あとスイーツメニューのバナナオムレット」
氷雨は傍らのスイーツメニューも重ねて開いた。
「俺、バナナオムレットって食べたことないです。どんな感じですか」
「バナナとクリームがスポンジに包まれてるの。ほら写真あるよ」
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