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理想のデート3

 氷雨はスイーツメニューの写真を指差した。メニューに載った写真には、見るからにやわらかそうなスポンジにたっぷりのクリーム、そこに埋もれるようにバナナが挟まったデザートの写真があった。 「おいしそうですね。俺も食べてみようかな」 メニューを閉じて店員を呼びつけ、二人は注文を告げた。 「そういえば悠馬、お金あるの」 「夏休みにちょっと親父の会社の手伝いやって小遣いもらったんで大丈夫ですよ。工場の作業楽しかったなー」 「ああ、それで連絡つかなかった時があったのか」 「あの時めちゃめちゃ通知来ててビビったんですけど……」  「僕の呼び出しに応じないなんてあり得ないからな」  夏休みといえば、悠馬が氷雨と関係を持ってから便利要員として氷雨に呼び出されたり呼び出されなかったりしていた頃だった。悠馬はその合間に帰省をして父の会社の工場で作業をし、アルバイトのようにいくらか小遣いをもらっていた。  氷雨は大学進学の準備を理由に、夏休みの帰省は数日しかしなかった。もちろん自習に励んでもいたが、悠馬をもてあそぶのも面白くなって寮に残っていたのだ。  そんな氷雨は、悠馬にメッセージを未読のまま無視されるのは気に食わなかったので、電話もトークメッセージもわんさか送って悠馬を急かすこともあったのだった。本当に氷雨先輩の扱いは骨が折れるな、と悠馬は心の中でつぶやいた。 「わざわざ親の工場手伝ってたってことは、悠馬は将来会社を継ぐの?」 「いや、うちの会社は親父の代でつぶすつもりみたいです。俺には普通の就職して欲しいって言ってますよ」 「ふーん……普通の就職、はかなわないかもしれないが、とりあえず悠馬は親の跡は継がなくていいんだな」 氷雨は引っかかる言い方をした。普通の就職がかなわないってどういうことだろう。詳しく聞こうかと思ったが、次いだ氷雨の問いに悠馬は結局問いを発しなかった。 「悠馬は僕とずっと一緒にいたい?」 「へ、は、はい、もちろん」 「未来永劫?」 「できれば一蓮托生……」 一蓮托生とは仏教の言葉で、死後、極楽の同じ蓮華の花の上に生まれることを言う。つまり死んでもまた同じ蓮の上で会いましょうという意味だ。 「だから重すぎるんだよお前は。死後の話よりまず現世どうにかしろ。そうだな、悠馬、とにかく成績上げろ。今はどのくらい?」 「こないだはパシりに精を出したんで赤点ぎりぎりでしたけど、入学すぐのテストでは中の下でしたね」 「じゃあ上の上目指せ。お前ならできるだろ」 「氷雨に期待されてる」 「期待じゃない、現実にするんだよ。特に語学は励め。大学に行ったらいくつか他言語のコマを取るといい。英語はもちろん、あとは中国語あたりかな」

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