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理想のデート6
二人が幻疋屋パーラーを出ると、施設入り口付近にあれだけ集まっていた人たちがほとんどいなくなっていた。みかんジュースの蛇口の前にあった行列も解消され、今は三、四人しか並んでいなかった。悠馬はそれを見て氷雨に声をかけた。
「せっかくだから飲みませんか」
「そうだな、ジュースくらいならまだ入る」
二人はカウンターでプラカップを買った。このプラカップの代金がイコール、ジュースの代金というわけだ。並んでいる人を見ていると、蛇口から注ぐシーンを写真や動画に残しているようだったので、ひとまず氷雨が先に並んで悠馬が撮影係として横にいることにした。
蛇口は三つあり、温州みかん、青島みかん、るるひめ、と種類と愛媛県などの産地が記載されていた。氷雨はるるひめを選んで蛇口をひねった。悠馬はスマートフォンを構えて熱心に氷雨を撮影した。
「顔ばっかりじゃなくて注ぐとこ撮れよ」
「撮ってますよー」
「ならいいけど」
みかんジュースを注ぎ終えた氷雨が悠馬のスマートフォンを覗き見ると、カメラロールに今撮った氷雨の写真がたくさん並んでいた。動画だけでなく連写で撮影もしたらしい。
「おんなじ写真ばっかり撮ってどうすんの」
「良いでしょ、俺のスマホが氷雨でいっぱいに……」
「気持ち悪っ」
「えへへ、もっと言って下さい。これロック画面と壁紙にしようっと」
「僕だけ写ってるのを壁紙にしてもしょうがないだろ」
「じゃあ俺と一緒に撮ってくれるんですか?」
氷雨はその問いには答えずに、ジュースを一口飲んで悠馬にさっさと蛇口へ並ぶよう促した。それから頼まれたわけでもないが悠馬がジュースを注ぐシーンも撮影し、トークアプリで送ってやった。悠馬は自分の写真なんてどうでもよかったが、氷雨が撮ってくれたことを嬉しく思っていた。
そうして二人は蛇口のそばに置かれたテーブル席に腰掛け、悠馬もジュースに口をつけた。悠馬は温州みかんの蛇口を選んだ。
「わ、甘っ」
「そうなの? 僕のはさっぱりしてるよ。ほら」
氷雨が自分のカップを悠馬に差し出すと、悠馬は遠慮がちにそっと口をつけ、すぐに口元を押さえた。
「何」
「間接キス……」
「馬鹿なの?」
間接キスどころか何度も深いキスを重ねているというのに。なんでここで照れるんだコイツは。
「馬鹿ですよ。俺先輩といるともっと頭悪くなっちゃうんです」
「それは困るな。僕は馬鹿嫌いだから」
「えーじゃあ成績上げますね」
「成績の問題じゃないだろ。そのアホな言動やめろよ」
「……やめたいんですけど気持ちが先走っちゃって」
悠馬はそこで言葉を切ったが、それだけでもう氷雨のことが好きで好きでたまらないという想いが痛いほど伝わってくるようだった。観念したように氷雨はそっと目をそらした。直視していたら自分までその恋慕の海に溺れてしまいそうだったからだ。
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