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理想のデート7
「じゃあそろそろ水族館へ行きましょうか」
「……その前に、これ」
氷雨は唐突に悠馬の腕を引き、横にある撮影用のスポットへ導いた。そこは流行りのSNS映えを意識したエリアで、ジュースを買った客を対象にスタッフが客のスマートフォンで一枚だけ撮影をしてくれるとのことだった。
背景は白地にところどころオレンジ色の大きなドット模様があしらわれており、みかんのイラストやセリフのフキダシなどの手持ちパネルも置いてあった。氷雨はスタッフにスマートフォンを渡して撮影をお願いした。
悠馬は鼻歌交じりに手持ちパネルを選び、『I♡みかん』と書かれたみかん型のパネルを両手で胸の前に持つことにした。
「パネル持たないんですか? 氷雨先輩が持ったらすごく可愛いのに」
「持ったらできないだろ」
「何が?」
悠馬は頭の上に疑問符を浮かべて問いかけたが、氷雨はそれをまたしても無視してスマートフォンを構えるスタッフに向き直り、スタッフがシャッターを切る直前に悠馬の片腕に自身の両腕をからめた。
「えっえっ……えっ!?」
「動揺しすぎ。笑顔作れよ」
うろたえる悠馬に対し、氷雨は余裕しゃくしゃくに口角を上げた。スタッフがシャッターを切る。
「はい、チーズ」
「ありがとうございます」
「仲良いんですね」
スタッフの女性が口元をほころばせて言った。高校生が友だち同士ではしゃいでいるように見えたのだろう。
「いえ、別に」
「腕に抱きついておいて別に、は無いでしょうが」
「ただの気まぐれだし。あーせっかくの写真なのに悠馬間抜け面じゃん」
「先輩がびっくりさせるから」
「耳真っ赤」
「からかわないで下さいよ」
悠馬は普段鞭だの過激な道具だので痛めつけてほしいだとかたくさん罵倒してほしいなどと言ってみたり、かと思えば強引な行為に及んでみたりしているくせに、間接キスやスキンシップにはやたらと照れた反応を見せた。もしかすると不意打ちには弱いのかもしれないと氷雨は思った。またたまに茶化してやろう。
写真は氷雨のスマートフォンで撮ってもらったので、トークアプリで悠馬へ送信した。悠馬が嬉々としてこの写真をロック画面に設定する横で、氷雨もこっそり同じ写真をロック画面にした。
実は先ほどの蛇口からジュースを注ぐなんの変哲もない悠馬の写真も、氷雨は壁紙にしていたのだった。もちろんどちらのことも悠馬には教えてやらないことにしていた(すぐにバレることになるだろうけど)。
初デートの写真を大切にするなんて馬鹿馬鹿しいと思っていたが、意外と悪くないかもな、なんて氷雨は心の中で呟いたのだった。
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