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理想のデート8

 さて、たっぷり腹ごしらえも済んだところで、二人は水族館へ向かった。合同遠足の際はぴりぴりした雰囲気でかつ悠馬と氷雨の仲も険悪だったが、今は違う。入り口り掲げられている大きな看板に描かれたサメと三羽のペンギンが、和やかに二人を出迎えてくれているようだった。 「あ、イワシ!」 悠馬は子どもみたいに声を弾ませた。この水族館は入館するとすぐに大きな水槽があり、イワシの群れが真っ先に目に飛び込んでくる。きらきら輝くそれと、美しい模様が鮮やかな数種類の鯛が泳ぐ。  この竜宮城にいるレイヤーミディアムヘアの乙姫様は随分底意地が悪そうだが、いじめられている亀に羨望の眼差しを向けるような奇妙な浦島太郎にはぴったりといったところか。 「また来ればいいだろって言ったの隊長でしたよね。一緒に来たかったからすごく嬉しいです」 「よかったな。今日は護衛もしなくていいし」 「時間制限もありませんからね。ゆっくり回りましょう。そうだ、イルカショーも見ませんか?」 悠馬はパンフレットを開き、ショーのタイムスケジュールを見ながら氷雨に聞いた。 「イルカショー? そんなの子どもじゃあるまいし」 「童心に返りましょうよ。俺小学校の遠足でしかイルカショー見たことなくて、記憶も曖昧なんです。それに最近は進化してるっていうじゃないですか。氷雨と一緒に見たい」 「僕と一緒に、ね……」  小学校の遠足、という言葉に氷雨はぴくりと眉を上げ、それから悠馬の要望を噛みしめるようにオウム返しをした。どこか含みのある口ぶりだったが、悠馬はあえて問いつめなかった。氷雨が話したいときに話してくれればいいと思った。時間はたくさんあるのだから。  二人はイルカショーが始まる時刻を気にしながら歩みを進めた。色とりどりの熱帯魚、大きな珊瑚、それから遠足の時にはさっさと通り過ぎてしまって気づかなかったがラッコもいた。愛らしい仕草に子どもたちが見入っている。 「ラッコって本当に貝持ってるんですね」 「だな。しかもこのラッコ、ここのガラスに貝殻を叩きつけてヒビを入れたこともあるって。意外と力が強いみたい」 「へえー」 氷雨はラッコの解説を見ながらそう返し、悠馬は相づちを打った。  ラッコの力が強いことも意外ではあったが、それよりも氷雨が水生生物にわりと興味がありそうなことがもっと意外だった。料理の時もそうだったが、氷雨には悠馬の知らない一面がたくさんありそうだ。

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