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理想のデート12
最後に二人はお土産のブースに立ち寄った。そこで悠馬が手にしたのは、ペンギンのシルエットを象ったプレート型がついたキーホルダーだった。ステンレス製でよく見るとちゃちな作りだが、流行りの「オトナかわいい」なんて文言が手書きのポップでつけられていた。
「先輩、見てみて。ペンギン」
「ふーん、プレートになってるんだ」
「これなら子どもっぽくないし鞄につけられるよ」
「そうかもな。……何、一つは誰かへのお土産?」
悠馬がキーホルダーを二つ持っていたため、氷雨は何気なくそう聞いた。悠馬はにんまり笑ってこう返した。
「俺と氷雨でお揃いにしたいなーって」
「僕が鞄にペンギンつけるの? ダサっ」
「ダサくないダサくない。本当はお揃いの指輪が欲しいけどまだ買えないから、せめてキーホルダーだけでも」
「指輪ぁ? 絶対嫌だ、大学生になったとしてもヤダ。お前に縛られてるみたいじゃん」
「縛るのは氷雨で縛られるのは俺なんで! とりあえずキーホルダー、ね、いいでしょ。昨日は俺に首輪つけてくれるって言ってたじゃないですか」
「首輪にしては随分安っぽいな」
「だからいつか指輪にしますって、プラチナ」
「プラチナってお前、結婚指輪か。カップルならステンレスかせいぜい純銀じゃないの」
「ただのカップルで終わらせたくないんで」
「……あっそ」
興味なさげに吐き捨てた氷雨だったが、その視線は無意識に自身の指先へ落としていた。
「それに先輩、水生生物お好きでしょう。ペンギンの生態とか詳しいじゃないですか」
「まあ、百科事典を眺めるのが好きな子どもだったからな。でもグッズってさあ……しかも悠馬とおそろいで鞄につけるの? やっぱりダサいだろ」
「じゃあ鞄につけなくてもいいです、机の引き出しにしまっておいてもらって構いません。俺は氷雨との思い出の品が欲しいだけだから」
食い下がる悠馬に根負けしたのか、氷雨は大きなため息を吐いてから「いいよ、買う」と呟いた。
「やった、お揃いですね」
「引き出しの奥の方にしまっておこう」
「たまに出して眺めてくださいよ。俺と出かけたなーって」
「お前とデートした思い出なんか」
どうでもいいし、振り返るもんでもないだろ。と続けようとした氷雨だったが、自分のスマートフォンのロック画面と壁紙のことを思い出して小さくうなったのだった。そう、今のロック画面は、先ほどみかんジュースのところで撮ったあの写真だ。悠馬のあの間抜け面をロック画面にしたところで、なんのご利益もないというのに。
そうして、ささやかな記念の物だけ買った二人は、どことなくこそばゆい気持ちを胸につつむようにして水族館をあとにした。歩きながら悠馬は氷雨の手をつなごうとしたのだが、強めに振り払われたのでやめることにした。
「つれないなあ」
「人前だから嫌なんだよ」
「ジュースのところでは人前で腕組んで写真撮ったのに」
「あれはノリだろ」
「幻疋屋パーラーでも俺と一蓮托生になる、なんて話したじゃないですか」
悠馬は口をとがらせてみせた。
「結局あの意味深な将来の話って何だったんですか? 成績上げろとか、車の免許取れとか」
「じきにわかるさ」
胡乱 げな悠馬に、氷雨はわざと口角を上げて答えた。頭上の空は、どこまでも突きぬけるように青く青く広がっていた。
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