5 / 112

告白

それは──大空に初めて話し掛けられた日から、数日が経ったある日。 担任に頼まれて、大空と二人、授業で使った十冊以上の辞書を図書室まで返しに行った時の事だった。 『……なぁ実雨』 薄暗い書庫内。そこに入り辞書を棚に戻していると、不意に大空が真面目なトーンで僕に声を掛けてきた。見ればその顔は、真剣そのもので。その雰囲気や空気感に気圧(けお)されながらも、ドキンッと胸が高鳴っていた。 『お前さ、俺の事どう──』 『……城崎くん、いる?』 それを遮るかの様に、高くて細い女子の声が外から聞こえてくる。 書庫の入り口に現れた、二つの影。 その人物は、大空より奥にいる僕の存在に気付いた途端、急にそわそわし始めた。 『……なんだ?!』 少しだけ強い口調。 呼ばれて一歩踏み()ってきたのは、同じクラスの佐藤栞だった。 佐藤さんは、身体の線が細くて、肌も色白で、可愛くて。男子から割と人気がある。 『あ、あの……話、いいかな?』 『いーけど。手短にして』 会話を邪魔されたせいか。僕の傍に立った大空は、少しトゲのある言い方で返す。 『じゃ、じゃあ……言うね。 ……城崎くん、好きです。私と付き合って下さい』 『──!』 空気が、一瞬で変わる。 驚いて大空を見れば、大空が僕にチラリと視線を寄越した。 『なぁ実雨。……お前、どー思う?』 『え……』 鋭い視線。突然振られ、動揺を隠せないまま……佐藤さんに視線を移す。 『………』 顔を真っ赤に染めた佐藤さんと、その横で見守る友達。二人の視線が、訴えるように僕に向けられた。 『……お、お似合いだと……思うよ』 他に、どう答えれば良かったのだろう……… この状況で、こんな風に振られたら……そう言うしかないじゃないか。 『………そっか。 実雨が言うなら、……いいぜ。付き合ってやっても』 『………!』 ズキンッ…… 大空が、僕から視線を外し……佐藤さんへと向けると、口角を持ち上げながらそう答えていた。 「………」 もしあの時、あんな事を言わなければ…… 大空は……彼女と付き合ったりなんか、しなかったんだろうか。 〈ミキさんは、それで良かったんですか?〉 《……そうだね。あの頃は、そう思ってたよ。カミングアウトして、彼との友達関係が終了する方が、怖かったから》 『お前、俺の事どう──』──あの時大空は、僕に何を言おうとしていたんだろう。 何となく、期待してしまう。 でも、そうすればする程苦しくなる。 今でも……

ともだちにシェアしよう!