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初めてのバイク
×××
梅雨は嫌い。
しとしとと、何時までも何時までも湿っぽく降り続くから。
灰色の空。薄暗い世界。
湿気た空気が纏わり付いて……気持ち悪い。
特に、学校の教室内は最悪。
人の熱気と高い湿度のせいで肌がじっとりと汗ばみ、白いスクールシャツが張り付いて気持ち悪い。
ノートを取る時も、紙が腕にくっつくし、机は何だかベタベタするし、水分を含んだ特有の臭いがして……嫌。
「……おい、白石!」
呼ばれて見れば、窓際に立つ今井が僕に手招きをしていた。
今井は角刈りな上にガタイが良く、おまけに色黒で目付きも悪く……正直怖い。
「……」
その隣には、細身で色白の大空。
今井とは真逆のせいか、お互いの体格や肌の色が際立って見える。
二人はこうしてよく連んでいる。
たまに周りが引く程怒鳴り合ったりする事もあるけど、変わらず一緒にいるのは、それだけ仲が良いんだろう。
「……聞けよ白石。
大空のヤツ、佐藤と付き合ってもうすぐ三カ月だってよ!」
怖ず怖ずと二人の前に歩み寄れば、今井がニヤニヤしながら僕にそう言い放つ。
……そっか。
あれからもう、三カ月が経つんだ……
「オイ、今その話は関係ねーだろ!」
今井を横目で睨みつけながら、大空が声を荒げる。しかし今井はヘラヘラとしていて全く堪えてはいない。
「ねだられてんだよなぁ、指輪」
「クソ、今井……」
腕組みをしたまま吐き捨て、唇を尖らせて今井から視線を外す大空。
しかし、不意にその目が僕へと向けられ、瞬きもせずじっと見つめる。
「……な、何?」
「実雨さ、今日ヒマ?」
「……え」
驚きつつも大空と今井を交互に見れば、今井も僕と同じように驚いたようで、大空の顔を覗き込んだ。
「指輪選ぶの、手伝ってよ」
「……え、」
──ドクンッ
それって……大空と一緒に、出掛けるって事……?
「お前なぁ。そういうのは佐藤と一緒に選ぶもんだろ?」
「……っせーな!」
大空が上体を前に倒し、今井を下から覗き込むようにして睨む。
「俺は実雨に頼みてーの。……で、今日、いいか?」
大空が僕を見る。
と同時に今井も僕に視線を向けた。
「……うん、いいよ」
理由はどうあれ、嬉しい。
放課後、大空と一緒に外を出歩くなんて……初めての事だったから。
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