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嵌めてみてよ
駅から少し離れた場所にある駐輪場。そこにバイクを止め、寂れた商店街を大空と歩く。
てっきり僕は、駅前の大型ショッピングモールにいくものだと思っていた。
大空が向かった先は、小さなジュエリーショップ。時代を感じつつも、敷居の高そうな雰囲気の店構え。
温かみのある照明。煌めくシャンデリア。ショーケースに並ぶ、装飾品の眩い輝き。
それらを魅了しながらも圧倒されてしまい、気後れしてしまう。
「……ほら、行くぞ」
「うん……」
堂々と入っていく大空。
その後ろを付いていく僕……
店の中央にある大きなショーケース。それを覗き込めば、目に付いたのはシルバーのペアリング。
タグを確かめてみると、どれも高校生では到底手が届かない桁の0 が並んでいる。
こんな高い指輪を……佐藤さんに……?
それだけ大空は、佐藤さんを大事に想ってる、って事……だよね……
突き付けられる、現実。
胸の奥が、ズキン……と痛む。
「なぁ。……お前なら、どれ貰ったら嬉しい?」
「……え」
僕のすぐ背後に立った大空が、斜め上から僕を覗き込んだ。
見上げるまでもなく、近すぎる距離に……ドキドキと心臓が落ち着かない。
「……え、と…僕は……」
「やっぱ、こーゆーのとか?」
ガラスケースの上から大空が指したものは、先程から僕が見ていたシンプルなデザインのペアリング。
女の子が好きそうなものは、繊細でキラキラしたデザインのものの様な気がするけど……
……でも、
「これって……」
マリッジリング、みたい。
言いかけて、止める。
佐藤さんの左手薬指にこのシルバーリングが嵌まるのかと思ったら、余計に胸が苦しくなる。
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