8 / 112

嵌めてみてよ

駅から少し離れた場所にある駐輪場。そこにバイクを止め、寂れた商店街を大空と歩く。 てっきり僕は、駅前の大型ショッピングモールにいくものだと思っていた。 大空が向かった先は、小さなジュエリーショップ。時代を感じつつも、敷居の高そうな雰囲気の店構え。 温かみのある照明。煌めくシャンデリア。ショーケースに並ぶ、装飾品の眩い輝き。 それらを魅了しながらも圧倒されてしまい、気後れしてしまう。 「……ほら、行くぞ」 「うん……」 堂々と入っていく大空。 その後ろを付いていく僕…… 店の中央にある大きなショーケース。それを覗き込めば、目に付いたのはシルバーのペアリング。 タグを確かめてみると、どれも高校生では到底手が届かない桁の(ゼロ)が並んでいる。 こんな高い指輪を……佐藤さんに……? それだけ大空は、佐藤さんを大事に想ってる、って事……だよね…… 突き付けられる、現実。 胸の奥が、ズキン……と痛む。 「なぁ。……お前なら、どれ貰ったら嬉しい?」 「……え」 僕のすぐ背後に立った大空が、斜め上から僕を覗き込んだ。 見上げるまでもなく、近すぎる距離に……ドキドキと心臓が落ち着かない。 「……え、と…僕は……」 「やっぱ、こーゆーのとか?」 ガラスケースの上から大空が指したものは、先程から僕が見ていたシンプルなデザインのペアリング。 女の子が好きそうなものは、繊細でキラキラしたデザインのものの様な気がするけど…… ……でも、 「これって……」 マリッジリング、みたい。 言いかけて、止める。 佐藤さんの左手薬指にこのシルバーリングが嵌まるのかと思ったら、余計に胸が苦しくなる。

ともだちにシェアしよう!