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嬉しい

「……今日は、マジでサンキュ」 嬉しそうに、笑顔を僕に見せる大空。 店を出て、駐輪場に停めたバイクを引き取った後、手で押しながら駅へと向かっていた。 空はすっかり薄闇に覆われ、街のあちこちに灯りが点く。 こんな僕の指で、本当に役に立ったんだろうか。 細いとはいえ、男と女では……やっぱり違うと思う。 佐藤さんの指のサイズ、僕よりもっと細い筈…… 「喜んでくれると、いいね」 心にもない事を口にする。 そんな自分が、嫌だ。 「……そうだな」 そう大空が答える。 やがて見えてくる駅の入り口。 もうここでお別れなのかと思ったら、淋しくなって自然と気持ちが沈んでいく。 ちらりと大空の横顔を盗み見る。 少しの間だったけど、大空と一緒にいられて楽しかった。 ……でも。 あの指輪を、佐藤さんの為に選んだんだと思ったら…… 「……」 複雑な心境のまま俯けば、不意に大空の足が止まった。 「……まだ、時間あるか?」 「え……」 「少しだけ、走らねぇ?」 「……」 思ってもみない大空の提案に、驚きながらもこくんと頷く。 「……バイク、好きなの?」 ヘルメットを装着して貰いながら、大空に尋ねた。 「好きだよ。バイク屋で、バイトもしてるしな」 「バイト……?」 「そう。……うちさ、母子家庭なんだよ。俺が学費稼がねぇと、生活成り立たねぇっつーか」 「……」 それなのに、あんな高価な指輪を。 「何だよ、その顔は。 学校にはちゃんとバイトの許可貰ってるし。コイツも……あー、原チャじゃねーから、まだ揉めてっけどな」 そう言って、サドルを叩いた大空が苦笑する。 ……知らなかった。 大空がそんな境遇だったなんて。 「あー、そういやメット。悪ぃな。コレ恥ずかしいだろ」 「……うん。ちょっと……」 はにかみながら本音を吐露すれば、大空が遠慮なく笑う。 「お前用のメット、今度用意しとくわ」 そう言って大空がヘルメットをポンと叩く。 ……それって。 また僕を乗せてくれるって事……? 「………うん」 僕専用のヘルメット。 指輪より、嬉しいかも── バイクの後ろに跨がる。 二回目は少しだけ、大空の腰に手を回すのにも慣れた。 大空の手が、回した僕の腕を二回タップする。出発の合図。 大空の足が地面から離れれば、大空と僕を乗せたバイクが風に乗る。 この時間が、ずっと続けばいいのに…… 何時までも……永遠に…… * 《それは、嬉しいね》 〈……はい〉 興奮したまま僕は、その夜ミキさんにメッセージを送った。 それを聞いたミキさんは、優しく受け止めてくれる。 《アメくん用のヘルメットは、どんなデザインなんだろう。楽しみだね》 そして、自分の事のように喜んでくれる。 それが、とても嬉しい。 〈……はい。楽しみです〉

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