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可愛い

ミキさんは、無条件に僕の話を聞いてくれる。 ネットの世界で、顔の見えない相手だからこそ……僕は色んな事を話してしまうんだけど…… 〈あの、僕ばかり話してますけど……つまらなく、ないですか?〉 《いや。とても楽しいよ》 ミキさんの言葉は、柔らかくて優しい。 《前に話したと思うけど。僕は好きな人とそういう経験が無かったから。 ……アメくんの話を聞きながら、あの頃出来なかった事を追体験している気分になるんだよ》 そう言われると、少しは役に立ってるのかなって思えて、気持ちがスッと軽くなる。 〈ミキさんは、好きな人にどんな思わせぶりな事をしてたんですか?〉 《……うーん。ベタで恥ずかしいけど。 ホモがいるって噂をでっち上げて、『狙われたらどうする?』って聞いて反応を見てみたり。その場の雰囲気というか、ノリみたいな感じで、肩を抱いてみたり……ね》 〈……可愛いとか、言ったりはしなかったんですか?〉 《そういう事は、全然。 気持ち悪いって思われたくなくて。一度も》 『……実雨。お前、マジで可愛いよな』 バイクで家の近くまで送って貰い、ヘルメットを外して貰う時……ベルトをキツくしたみたいで、上手く外れなくて……真剣な瞳をした大空の顔が、僕の鼻先まで迫っていた。 大空の指が、何度も僕の喉元に触れ、 大空の吐息を、何度も感じて…… 擽ったくて、恥ずかしくて。 ドキドキしながら大空から視線を逸らせば、不意に目線を上げた大空がニヤリと笑う。 『そういう、反応とか』 ヘルメットが外れれば、中に籠もっていた熱気が解放される。 湿って、ヘタれた髪。 大空の手が伸び、僕の髪をくしゃくしゃっと掻き回す。 擽ったくて……嬉しい。 〈……僕は、言われすぎの様な気がします。 嬉しくて、その度に舞い上がってしまうけど……本当は、反応が面白くてからかってるだけなのかも〉 《そんな事ないと思うよ。ソラくんから見たら、アメくんは本当に、可愛いんじゃないかな》 〈そう……でしょうか〉 自信なんて、ない。 僕は今まで、誰かに『可愛い』なんて言われた事は無かった。 実雨という、女みたいな名前のせいで『可愛い』と揶揄われた事なら、何度もあったけれど。 大空もそのノリだったとしたら……

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