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悪ノリ

××× 昨夜から、降ったり止んだりを繰り返すしとしと雨。 灰色の空。 湿気を含んだ、重苦しい空気。 じめじめとした校舎内に入れば、あちこち雨や泥で汚れ、それだけで憂鬱な気分になる。 けど…… 大空とバイクで出掛けた日の出来事が、僕の気持ちを押し上げてくれた。 梅雨の季節が、少しだけ嫌なものではなくなる。 薄暗い廊下。 元気な声を上げる女子生徒達の横を通り、教室のドアを開けた。 「……おぉー!」 目に飛び込んだのは、窓際に固まって何やら騒いでいる数人の男子。 その輪の中にいた今井が、僕に気付くなり片手を上げて手招いた。 「お前もこっちに来いよ!」 ニヤニヤする今井に気後れしながらも、断れずにそっと近付く。 今井の傍に立って見れば、その中心にいたのは──大空。 「……で、どうだったんだよ」 「佐藤を家に連れ込んで。……で、その後、カモぉーン!」 「カモぉーン!」 興奮気味の男子五人が、一人椅子に座る大空に前のめりになる。 状況が把握できないまま戸惑っていれば、僕の肩に腕を回した今井が、耳元に唇を寄せて囁く。 「今から大空が、聞かせてくれんだってよ。……佐藤とのセックス」 ……え…… 突っ立ったままの僕に気付いた大空が、僕を横目で見上げる。 鋭くて、怖い目…… 「………」 視線が合ったまま、逸らせない。 『……カムフラージュかもよ?』──ミキさんの言葉が、脳裏を掠める。 「何だよ大空。勿体ぶんなよ」 「……ヤったんだろ?」 次々と(はや)し立てる、傍聴男子達。その異様な空気の中、無表情に変わった大空が、僕から視線を外して口を開く。 「……まーな」 ───瞬間。 しとしとと降り出す雨。 僕の頭上に。心に。 じめじめと重たい空気が、僕の体に纏わり付く。

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