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抱いて
俯き、喉奥から声を絞り出しながら、シャツの胸元をギュッと掴む。
僕の台詞が予想外だったのか。視界の端に映り込む、ミキさんの驚く顔が見えた。
「………」
一歩、踏み込んだんじゃない。
壊そうとしてる。……壊れてしまう。
ミキさんとの関係が。
たった、この一瞬で──
「どう、って……?」
「……思ってたより……」
悲しい、淋しい、虚しい……
何より、惨めったらしい。
自分を安売りするような真似をして、もし、拒まれでもしたら……
……多分もう、立ち直れない。
「可愛く無かった、ですか……?」
こんなの、本当の僕じゃない……
一時の感情のせいで、この先の未来まで失うような事になったら……きっと後悔する。
……そんなの、解ってる。
解ってる、けど……
「……」
俯いたまま、正面に向き直る。
揺れる、視界。
ガラスの向こうに映る様々な色が、降り止まない雨の中、滲んで入り混じる。
竦める肩。そこに、ミキさんの肩がスッと近付いて……
「………可愛い、よ」
ドクンッ──
耳元に寄せられる、唇。
僕を心ごと包み込む、吐息混じりの優しい声。
「ソラくんが、思わず抱き締めてしまいたくなる気持ちが、解るよ」
大空に似た声で。
そんな風に囁かれたら……
「………じゃあ、抱き締めて……下さい」
声が、心が……震える。
手も足も……全然力が入らなくて。
……息が、苦しい……
「僕を……抱いて」
縋るように見上げれば、視線がぶつかったミキさんが、驚いた顔をしていた。
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