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初めての場所

××× ラブホテルは、初めてだった。 勿論、そういう経験なんて一度もないけれど…… 雨に濡れたネオン街。 人通りのある賑やかな通りから脇道に入り、少し行ったその先。 ピンクと紫色の光を放ち、明らかに他の建物とは様相の違う、お城のような外観。 妖しげな雰囲気を纏い、こういうのに疎い僕でも、それがどういう所か直ぐに解る。 入口に入って直ぐ目に付く、大きなパネル。そこにずらりと並ぶ、各部屋の番号と内装写真。 その中の一室をミキさんが選び、無言のまま部屋へと向かう。 廊下を歩きながら、僕の中にいる冷静な自分が『引き返すなら今だよ』と訴えてくる。 だけど……知りたかった。 大空が経験した、セックスを。 大空は、どんな風に抱くんだろう。 どんな声を、出すんだろう。 もし大空に抱かれたら……どんな気持ちになるんだろう。 大空に抱き締められた時の感触や匂いを思い出し……胸がきゅう、と切なく締め付けられる。 本当は、大空に抱かれてみたかった…… でも、叶わないならせめて……想像の中だけででいい。 ……大空と、重なりたい。 ミキさんに、抱かれながら── 「……おいで」 口端を緩く上げたミキさんが、僕の手を握る。 大きな、大人の手。 壁際にある、柔らかな間接照明の光。 部屋の真ん中には、見たこともないキングサイズのベッド。 写真で見たものより、シックで落ち着いた印象。 今からここで……ミキさんと…… そう思ったら、勝手に体が強張り、手足が震える。 「……緊張、してる?」 「……」 そう聞いたミキさんの手も、少し震えていた。 驚いて、ミキさんを見上げる。 薄暗いせいか。微笑んだミキさんの表情が、大空とダブって見えた。

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