19 / 112

温もり

固く閉じた唇。そこに、柔らかな熱がそっと当てられる。 「……」 人生初めてのキスは、思っていたより………嫌じゃない。 大空とは違う匂いに包まれ、想像する間も、余裕も無かったけれど。 「……もし嫌だと思ったら、ちゃんと言って」 ゆっくりと離れた唇が、僕の鼻先で囁く。 その吐息が擽ったくて。 少し顎を引き、薄く瞼を上げた。 「………うん」 僕が答えると、ミキさんが柔らかく微笑む。 全く変わらない印象。誠実な表情。 ミキさんの吐息。 それが、僕のと混じる。 他には何も聞こえない。 甘く、柔らかく、作り変えられていく……空気。 彼の左手が僕の肩に回り、左の二の腕を掴んで、少しだけ強く引き寄せられる。 彼の胸へと寄り掛かれば、ギュッと抱き締められ……ドクン、と心臓が大きく跳ねる。 ペットボトルを摑む僕の手に、彼の右手が重なる。 熱くて、少し汗ばんだ手のひら。 ドク、ドク、ドク…… ダイレクトに伝わってくる、ミキさんの鼓動。 それに引っ張られるように、僕の鼓動も速くなっていく。 ……緊張、してる。 でも、不思議…… 嫌な緊張感じゃない。 何だろう……高揚感っていうのかな。 熱くなっていくのに、身体から力が抜けていく感じ…… 僅かに残っていた強張りも消え、彼に身を委ねる。 心地良い。 眠い……のかな。 重たくなった瞼を閉じ、その気怠い余韻に浸る。 穏やかで、優しくて……温かい。 まるで、陽だまりの中にいるよう。 居場所。──そうだ。僕の為に用意された、心地良い居場所みたい…… 「……可愛い」 髪にかかる、熱い吐息。 そこに当てられる、囁いた唇。 ──その瞬間。 ぱちん、と目が覚める。 ここが何処なのか。なんの目的でここに来たのか──そういったものを全部、忘れてしまっていた事に気付く。 顔を上げれば、僕を見下ろす彼と目が合う。 ……潤んだ、優しい瞳。 まるで、愛おしいものを見るかのような眼差しに、僕は一瞬、勘違いをしてしまいそうになる。 「………ミキ、さ……」 おずおずと声を掛ければ、その瞳孔が開き、一瞬だけ揺れ動く。 だけど直ぐに口角が持ち上がり、焦点の合った優しい瞳を僕に向ける。 「………しても、いい?」 「え……」 さっきは、聞かなかったのに…… 改めて聞かれると、またドキドキと煩く心臓が暴れ回る。 だけど……お陰で心の準備ができたかも。 「………はい」

ともだちにシェアしよう!