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溺れたい

気怠い身体をベッドに預けたまま、小さく息を吐く。 ……望んでいたものとは、違っていた。 突き付けられたのは、現実。 最初から大空は、何処にもいないって事…… 「……ソラは、カムフラージュなんかじゃ、なかったんです」 樹さんに腕枕をされた後、ぽつりと呟く。 「彼女と、その……エッチ、してて……」 「……実雨」 僕の言葉に、樹さんは全てを察したのか、細く小さな溜め息を漏らす。 「カムフラージュで女性とエッチするゲイは、世の中に存在するんだよ」 樹さんの言葉に、小さな衝撃を受ける。 ……それは、女性とも出来るゲイがいるという驚きで…… もしかしたら、大空がそうなのかも……という気持ちは、もう微塵も残っていなかった。 もし仮にそうだったとしても、彼女との性行為の内容を、事細かく話せるだろうか。顔色ひとつ変えず……好きな人のいる前で。 ──僕だったら出来ない。 どうでもいい存在だからこそ、出来たんだ…… 僕は、大空にとっては何でもない、ただのクラスメイトの一人。 ……そう、思い知らされただけ。 「僕が……そうだったんだよ──」 「……え」 寂しそうな声。 樹さんを見れば、口元を緩ませてはいるものの、何処か苦しそうにしていて…… 樹さんがどんな気持ちで女性と付き合い、事の成り行きでエッチをしたのかと思うと……いたたまれない気持ちになる。 僕に対して、そういう気持ちのない樹さんにエッチを求め、応じて貰ったのと……何にも変わらない。 その上僕は、樹さんに対して何の気持ちもないにも関わらず、利用したのだから……もっと質が悪い。 「……ごめん、なさい」 「どうして謝るの?」 「……だって、僕……樹さんを、傷つけた……」 視線を逸らせば、樹さんが僕を優しく包み込んで、抱き締める。 「僕を、ソラくんの代わりにしたって事?」 耳元で囁かれる声。 「………はい」 正直に答えても、樹さんは咎めたりしなかった。寧ろ、僕の瞼に掛かる前髪をそっと搔き上げ、慰めるかのように繊細な笑顔を向ける。 「いいよ。 ……実は僕もね、実雨を初めて見た時、……好きだった彼に似てるって、思ったんだ……」 「……え」 「だから、誘われた時は……嬉しかった。 正直、戸惑いはあったけどね。 ……でも、触れてみたいと思ったよ。実雨の中に、ソラくんが居たとしても」 ──ドクンッ 大空に似た声のせいか。 まるで大空に求められたようで……心臓が中々落ち着かない。 さっきまで、恥ずかしい事してたのに。 ……今の方が、恥ずかしい。 「だから、おあいこ」 ふふ、っと樹さんが笑い、僕を抱き寄せ、肌と肌を重ねてくれる。 「……」 大空とは違う、優しい温もり。 だけど、そこにいつまでも溺れていられたら……なんて、思ってしまった。

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