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好きだよ

教室から飛び出す。 人気の無い、仄暗い廊下。 痺れる、指先── きょろきょろと辺りを見回すけれど、既に大空の姿は、見開いた二つの瞳に映らなくて。 急いで階段へと向かう。 「……大空……」 心細くなって呼んでみる。 けど、僕の声だけが反響して聞こえるだけで……返事はない。 足が縺れそうになりながら階段を駆け下り、玄関へと走る。 さっきまでいたんだから……まだ学校にいるはず。走ればきっと追い付く…… ……そう、思っていたのに…… 大空の下駄箱には、綺麗に踵を揃えた上靴があった。 「………」 なんで…… ……なんで………なんで…… 血の気が、一気に引く。 ──僕はまだ、大空に……伝えてない…… 僕の、本当の気持ちを……ちゃんと── 上靴のまま雨で濡れた叩きに降り、ガラス戸を開けて外に飛び出す。 サァァ…… 細雨に濡れ、髪も肌も濡れ、しっとりと重くなったシャツが、気持ち悪い程に肌に纏わり付く。 「……大空」 玄関横の駐輪場。 自転車の列と列の間を走りながら探すけれど……大空の姿はない。 いつもの場所にある筈の、大空のバイクも…… サァァァ──ッ 「……大空ぁ」 降りしきる雨の中。 僕は、想いの丈を吐き出す。 「僕も……僕も大空が、好き……」 だけど──届かない。 静かだと思っていた雨の音が、やけにうるさくて。 ……僕の声を、簡単に掻き消してしまう。 「好きだよ……大空ぁ……」 行き場のない、台詞。 ……どうして素直に、伝えられなかったんだろう…… 想いがすれ違ってしまったんだと思ったら、胸が張り裂けそうに痛い。 今伝えなきゃ、きっと後悔する。だけど、その手段がなくて。 閉じた瞳の縁から涙が溢れ──雨と混じって頬を伝い、流れ落ちていった。

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