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携帯電話
×××
脱衣所の鏡に映る、身体の細い僕。
剥き出された首筋や鎖骨には、幾つもの鬱血痕と青紫色の痣。
あれから僕は、メッセージで呼び出される度に、今井くんのアパートに通うようになった。
部屋に上がってする事といえば──
蒸し風呂のように暑い部屋の中、今井くんの気が済むまで、何度も身体を思い通りにされる。
僕に拒否権なんてない。
でも、黙って大人しく言うことを聞いていれば、今井くんは優しい。
身体を重ねた後は……特に。
「……」
この状況がいいなんて、全然思わない。
けど……今の僕には、今井くんしかいないから。
怖い──けど、僕から離れていってしまうのも怖い。
今井くんの事は、全然好きじゃないけど……
「新しいグラス、買いに行くか」
シャワーから上がり、持ってきた替えのシャツに着替えて部屋に戻ると、僕の携帯を持っていた今井がそう呟く。
「その後、必要な食材でも買いに行って──」
「……」
「また作ってよ。オムライス」
「………うん」
「そういや、外でお前とぶらついた事なんて、なかったな」
突っ立ったまま微動だにしない僕に近付き、片手で僕の携帯を返してくる。
「……」
その表情は穏やかで。
……酷くほっとする。
ミーンミンミン……
外は、相変わらず暑い。
直ぐに喉はカラカラに渇くし、元々体力のない僕から容赦なく体力を奪う。
商店街にある寂れたアーケードに入り、ようやく直射日光から免れる。
「……」
首元の汗を拭って、気付く。
そこに付けられた痕が、人目に曝されている事に。
そのせいなのか。それとも、元々そうなのか。
今井は僕にはお構いなしに、自分の歩幅でさっさと前を歩く。
その後ろを、僕は必死に追い掛ける。
「………お、今井じゃん!」
脇道から偶然現れたのは、三人の同級生。
大空と連んでいた……あの五人の中のメンバー。
今井の陰に隠れながら、首元を片手で覆い隠す。
「え、てか何で、白石と……?」
「……んな訳ねぇだろ。ついそこで声掛けちまったら、勝手に付いて来ただけだ」
──え……
今井の台詞に、思考が止まる。
「だよな!」
「もうアイツら集まってるからさ。早く行こうぜ」
「──あぁ、そうだな」
三人と立ち去ろうとする今井が、僕に突き放すような視線を送る。
その目には感情が一切感じられず……僕の心を容赦なく引き裂いた。
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