43 / 112

携帯電話

××× 脱衣所の鏡に映る、身体の細い僕。 剥き出された首筋や鎖骨には、幾つもの鬱血痕と青紫色の痣。 あれから僕は、メッセージで呼び出される度に、今井くんのアパートに通うようになった。 部屋に上がってする事といえば── 蒸し風呂のように暑い部屋の中、今井くんの気が済むまで、何度も身体を思い通りにされる。 僕に拒否権なんてない。 でも、黙って大人しく言うことを聞いていれば、今井くんは優しい。 身体を重ねた後は……特に。 「……」 この状況がいいなんて、全然思わない。 けど……今の僕には、今井くんしかいないから。 怖い──けど、僕から離れていってしまうのも怖い。 今井くんの事は、全然好きじゃないけど…… 「新しいグラス、買いに行くか」 シャワーから上がり、持ってきた替えのシャツに着替えて部屋に戻ると、僕の携帯を持っていた今井がそう呟く。 「その後、必要な食材でも買いに行って──」 「……」 「また作ってよ。オムライス」 「………うん」 「そういや、外でお前とぶらついた事なんて、なかったな」 突っ立ったまま微動だにしない僕に近付き、片手で僕の携帯を返してくる。 「……」 その表情は穏やかで。 ……酷くほっとする。 ミーンミンミン…… 外は、相変わらず暑い。 直ぐに喉はカラカラに渇くし、元々体力のない僕から容赦なく体力を奪う。 商店街にある寂れたアーケードに入り、ようやく直射日光から免れる。 「……」 首元の汗を拭って、気付く。 そこに付けられた痕が、人目に曝されている事に。 そのせいなのか。それとも、元々そうなのか。 今井は僕にはお構いなしに、自分の歩幅でさっさと前を歩く。 その後ろを、僕は必死に追い掛ける。 「………お、今井じゃん!」 脇道から偶然現れたのは、三人の同級生。 大空と連んでいた……あの五人の中のメンバー。 今井の陰に隠れながら、首元を片手で覆い隠す。 「え、てか何で、白石と……?」 「……んな訳ねぇだろ。ついそこで声掛けちまったら、勝手に付いて来ただけだ」 ──え…… 今井の台詞に、思考が止まる。 「だよな!」 「もうアイツら集まってるからさ。早く行こうぜ」 「──あぁ、そうだな」 三人と立ち去ろうとする今井が、僕に突き放すような視線を送る。 その目には感情が一切感じられず……僕の心を容赦なく引き裂いた。

ともだちにシェアしよう!